僕の真実
―レイヴンの森 夜―
あれから、僕は不思議な花達に囲まれながらアリアの話を聞いていた。花園には精霊達がいること、ここに咲く花は満月の光に反応して光ること、それらを全て楽しそうに夢中になって教えてくれた。
「――それでね、この花園の言い伝えを信じて人間達は森を探していたの。だけど、ほとんどの人間達は見つけられなかった。そして、時の流れの中でこの森に人間達は寄りつかなくなって……今では、すっかり皆の記憶からは消えちゃった」
花園のことを教えてくれる彼女の表情は、とても眩しかった。楽しそうにしている様子を見ると、僕も気持ちが弾んでくる。いくらでも、彼女の話を聞いていられた。
ただ、話を聞き続けている中で僕は少し違和感を感じていた。
「ハハ、君は本当に詳しいんだね。でも、どうしてそんなに詳しいんだい? 今、この時代を生きる人間達はここを知らないんだろう? 言い伝えすら消え去ってしまったのに。君の言い方だと、この場所からずっと変遷を見守っていたように聞こえてくるよ。そうだなぁ、この花園に住まう精霊達の目線だったら、アリアの言い方は自然に感じられるけど」
伝えられる人がいなくなってしまったのに、月夜の花園ことを、ここまで詳細に知っているのが不思議だ。嘘や出任せを彼女が言うはずもない。しかし、あの口ぶりだと矛盾が生じているように思えてならなかったのだ。
「え、あ……それは、お父さんから聞いたままを話しただけで……わ、私は知らないよ? お父さんが、この森に凄く詳しかったんだ。も、もうお父さんはいないから分からないけど……アハハ」
僕の指摘に対して、彼女は申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「そういうこと? だとしたら、君のお父さんは一体何者……?」
アリアの父親だったとしても、年齢は常識の範囲内であるはずだ。この森の研究者だったとしても、やはり気になる。伝え方が、人間の立ち位置でないように感じてならないのだ。アリアは、父親の言ったままに僕に伝えたらしい。となると、父親の正体が気にかかる。詳しいからという一言で、片付けられるようなことではないような気がする。
無論、この推測はアリアが嘘を一つもついていないことが前提になるが。
「う、う~ん、分からないな。あまり深くは教えてくれる人じゃなかったんだ。しつこく聞いておけば良かったかなぁ、なんて……」
そして、彼女は月を見上げる。月光と輝く花に照らされる横顔は、美しさと儚さを兼ね備えていた。触れたら壊れてしまいそうな、危うさを感じた。
(うぅ、変な空気にしてしまった。好奇心に負けて、デリカシーのない質問をしてしまったのかもしれない。どうしよう、アリアあんなに楽しそうに話していたのに……僕のせいで話が途切れてしまった。どうしよう。いや、でも、逆にこれはチャンスか?)
ずっと彼女の話を聞いていたから、僕自身の話をするタイミングがなかった。空気を悪くしてしまった今を、利用するしかないだろう。だらだらと先延ばしにしていては、男が廃る。自分で決めた覚悟くらい、自分で成さなければ。
「ね、ねぇ! アリア。僕の話を……聞いてくれないかな? さっきまでの話とは全然関係ないんだけど、いいかな?」
「うん? 何?」
アリアの視線が、僕に向けられる。緊張し、手に変な汗をかく。優しい視線も、今の僕には痛い。でも、逃げてはいけない。いつまでも、逃げ続けていてはいけないのだ。
そして、覚悟を決め、自分を奮い立たせるように手を握り締めて口を開く。
「僕はずっと、大きな嘘をついている。そして、これからもつき続ける。だけど、君には……本当の僕を見て欲しい。友達として、真実を言わせて欲しい。あのね、僕はっ――王なんだ」




