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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十四章 悪夢の終わりに
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月夜の鎮魂歌

―N.N. ? 夜―

 妖しい月光だけが差し込む暗い部屋の中央で、自分はピアノを弾いていた。何も知らず犠牲となった同胞達へと捧ぐレクイエムを。


(苦しかっただろう、怖かっただろう、痛かっただろう。アシュレイもクロエも……本当なら楽に逝かせてあげるつもりだったのに。こんな形で、全て終わってしまうなんて……)


 どんな形であれ、自分が命を奪ったことは変わりない。これは、自分なりの謝罪だった。長い間続けてきたピアノでなら、感情を乗せて上手く表現することが出来た。今までなら、それを邪魔されたことはなかった。しかし、計画の第一段階を経た今はそうではない。


「――うっさいねぇ。近所迷惑って言葉を知ってるカァ? オレぁ、うっさいのは大嫌いでねぇ。どれだけ高名なピアニストでも、一日中じゃんじゃん弾かれたら不快感しか感じねぇよ」


 演奏中に声をかけられ、自然と手がとまる。普段だったら、あり得ないことだ。


「バランサか。いいだろう? ここは、自分がトップに立ってるんだから。これくらいのワガママは許して貰いたいな」


 部屋の入り口で短めの黒髪を掻きながら、苛立ちを隠し切れない様子でこちらを睨む少女バランサ。彼女は、つい先日この国に戻ってきたばかり。一応、部下なのに態度は最悪である。扱いにくさ、厄介さは部下NO.1だ。


「はァ!? 許せる訳ねぇだろ。こっちは、わざわざ戻って来てやったのに、オレらへの配慮はゼロかよ。戻ってきてすぐに戦いばっかりでよぉ。少しは休ませろってんだ。な~のに、ずっとてめぇがピアノくっそ大きな音で弾きまくってるから、全然気が休まんねぇんだよ」

「それはごめん……でも、今日だけだから許してよ」


 悲しくて、悔しくて、予想外の出来事が最悪の形となって起こったことが受け入れることが出来なくて、望んでいたことに喜びを感じられず――混乱する気持ちを鍵盤にぶつけたかった。

 怒りのオーラを放つ彼女の存在をなかったことにして再び意識をピアノに向け、そっと鍵盤に指を乗せる。


(ここで、立ち止まっていてはいけない。心を鬼に、世間には英雄としての姿を見せなければ)


 まず、一段階としてカラスの悪としての像を揺らがす必要があった。目に見える形で。だから、アーリヤを利用した。いずれ解ける封印の日を待って。人間達への脅威となる者達を排除することで、本当に全てのカラスが悪であるのかという疑問を抱かせなければならなかった。

 それは、結果として成功したと言える。少なくとも、ニュースでは常に学長のあの発言がフォーカスされ、多くの者がそれに賛同するような意思を見せているから。

 ただ、これではまだ足りない。揺らがすだけでは足りない。次は完全に破壊しなければ。新たな器を手に入れた代わりに、自由を失ったあの男を利用して――。


「うっせぇってんだよ!?」


 思案しながら、演奏にのめりこんでいた自分を彼女が妨害する。爆発するような怒りの滲んだ声と共に響く不協和音。鍵盤には、バランサの手が乱暴に置かれていた。


「はぁ……どうして邪魔するの」

「うっせぇからだって」

「……はいはい。分かりましたよ。ここで弾くのはやめる」


 自分は立ち上がって、足早に部屋を後にする。


「それが出来るなら、最初からそうしてろよ。クソジジイが」


(ジジイ……確かになぁ)


 この乱れる気持ちは、別の場所にあるピアノにぶつけるとしよう。この国の城の下にあるアジトは、とても落ち着くから良かったのに――彼女がうるさいから仕方がない。これくらいの妥協は、受け入れなければ。

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