月光に照らされて
―レイヴンの森入り口 夜―
「――巽? 大丈夫?」
「え!? あ、あぁ……ごめん」
いつ切り出そうか、どういう言葉を使うべきかと悩んでいる間に、気が付いたらレイヴンの森へと到着していた。
「もしかして、本当は体調が悪いとか!? 無理してここに来てない?」
アリアの瞳に、心配の色が宿る。
「いや! 全然大丈夫だよ。ちょっと色々考えてて……」
「本当? それならいいんだけど。ずっと黙ってるから……どうしたんだろうって思っちゃった」
彼女は安心したように、胸を撫で下ろす。
「心配させてしまったみたいだね。僕は、この通り元気だから」
一人の世界に、すっかり入り込んでしまっていた。初っ端から、心配させてしまうとは情けない。僕は体調不良ではないということをアピールする為、力強く一度胸を叩いた。
魔力を激しく消費してしまったので、走り回れるほどの元気はないが、普通に日常を過ごすことは出来る。
「良かったぁ。でも、無理はしちゃ駄目だよ」
「心配し過ぎだよ。ほら、行こう」
「う、うん!」
アリアは頷いて、森の中へと入っていく。僕も、それに続いた。そして、森の中に一歩、足を踏み入れた瞬間である。
(何だ? この強大な力は……)
今までの森の雰囲気とは違った。空気ががらりと変わり、まるで別世界にでも訪れたかのような妙な気分だ。入り口手前では、何も感じなかったのに。本当に入った瞬間だ。
「ねぇ、アリア」
「うん?」
「いつ聞こうかなって思ってたんだけど、ここには一体……何の用があって?」
「ウフフ、きっと驚くよ。その場で驚いて欲しいから、今は内緒」
彼女は顔だけをこちらに向けて、引きつった笑みを僕に向ける。満月がその不気味さをより引き立てているので、少し勘弁して欲しい。
この森は木々が生い茂っているが、空全体を覆い隠すほどではない。それが、この森を幻想的に引き立てる。木々の間から見える、星々や満月が実に美しかった。
「驚くようなものがあるの?」
「うん! もうすぐだよ!」
(不思議で強大な力を感じるし……驚くようなものが、一つや二つあってもおかしくはないか。どんなものがあるのかな?)
彼女の導く先、そこには一体何があるのだろう。自然と好奇心をくすぐられる。少し前まで、真剣に悩んでいたことすら忘れて、これから起こることに夢中になった。久しぶりに明るいことで、心がいっぱいになった。
そして、ついに彼女の足がとまる。そこは、少し開けた場所だった。急いで、僕は彼女の隣へと駆け寄る。
「――っ!?」
あまりの美しさに衝撃を受け、言葉が出なかった。
「ね! 驚いたでしょう?」
「あぁ……」
目の前に広がっていたのは、その開けた空間いっぱいに咲き誇り、自ら発光する色とりどりの沢山の花々。そして、その花達を悠然と構える月が照らしていた。月光も花の光も、自己主張をしながらもお互いの美しさを引き立てていた。神秘的という言葉が、ぴったりだった。
そして、その神秘的な美しさは――傷付いた僕の心を自然と癒してくれた。




