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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十四章 悪夢の終わりに
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嘘にまみれた人生

―学校前 夕方―

「っう……っと」


 風が穏やかになったのを感じて、目を開ける。僕の目の前にあったのは庭園ではなく、大学であった。


(瞬間移動は成功したみたいだ、良かった。でも、待ち合わせの時間までは随分と余裕がある感じだな。なら、どうやって伝えるかを考えるとしよう)


 僕の人生は、嘘にまみれている。きっと、これからも変わらない。いや、変えられない。僕だって、嘘をつきたくてついている訳ではない。守らなければならないものがあるから、必然的に嘘が増えていく。その嘘の為の嘘も積み重ねられていく。もしかしたら、晩年には本当の自分なんて分からなくなっているかもしれない。そして、多くの人がその嘘に騙される。

 けれども、アリアをその大半にしたくなかった。誠意と覚悟を持ち、命の危険を顧みず僕の所へと来てくれた。その恩を返したい。返さねばならない。


(……あんな醜態を晒しておいて、さらに嘘つきだと告白して、彼女は僕に愛想をつかしたりしないだろうか? 受け入れて貰えるだろうか)


 心配は尽きない。いっそ、このまま嘘をつき続けた方がいいんじゃないかとさえ思う。


(いや、違う。受け入れて貰えなくても、彼女に嘘をつきたくはないんだ。僕は、タミじゃない。宝生 巽だ。武蔵国の王。その姿こそ、ありのままなんだ。彼女は、僕に誠意を持って接してくれた。なら、僕だってそれに応えたい。アリアは、友達……なんだから)


 一度は否定した、僕の本当の姿。成り得ないと、資格はないと、絶望した僕の生きる道。生まれながらにして、用意されていた道。そこから逃げる術なんて、ほぼなかった。受け入れるという選択肢しか、僕には見えなかったから。

 僕の選んだ道は、明確な主従関係のある世界だった。同世代の者達も、僕を王族としか捉えてくれない。僕もまた、彼らとは一線を引いて関わっていた。特定の者と親身になり過ぎると、面倒なトラブルが起こってしまうから仕方がないと。王と配下、それ以上にも以下の関係など不必要だと言い聞かせ続けて強がっていた。それに、十六夜に言われた。僕に友達など、出来る訳がないと。


(子供っぽいかな、こんなことでうだうだと……はぁ。子供の頃、皆はどうやって友達に秘密を打ち明けていたんだろう)


 過去は、過去として割り切れればいいのに。過去と今が分離した存在であればいいのに。どうして、時は繋がっているのだろうか。過去も未来もなく、今だけあればいいのに。そうすれば、もっと人生は楽になるはずなのに。


(……ただ素直に伝えることが出来ればいい。昔のことなんて関係ない。今の僕に、友達がいるんだ。友達のいなかった過去のことなんて考えちゃいけない。自然に、一般的に……言うんだ。当たり前のことなんだ。特別なことじゃない。皆が早く経験してきたことを、僕は今から経験するんだ)


 分かっている。時は、一つに繋がっているのだから仕方がない。怖がっていても仕方がない。アリアはどの角度から見ても清く美しく、そして優しい女性だ。嗤ったりなんてしない、軽蔑なんてしないと――僕の中にある彼女のイメージにすがるしか、心を落ち着かせることが出来なかった。


(大丈夫、大丈夫。大丈夫だ……絶対に大丈夫だ)


 僕が未知の恐怖に怯える中、ついにその時が訪れる。


「巽!」


 焦りの表情を浮かべ、駆けてくる一人の女性。彼女は僕の前にまで来ると、歪な笑みを浮かべる。


「アリア……」

「遅くなっちゃったかな。ごめんね。もしかして、待たせちゃった?」


 息を切らしながら、アリアは申し訳なさそうに僕を見つめた。


「待ってないよ。待ち合わせ時間はもう少し先だしね。どうする? ちょっと休んでから――」

「いいえ! 今すぐ行きましょう!」


 彼女は、やけに張り切っていた。走って来たのだから、少し休んだ方がいいように思った。だが、本人が強い意志を持ってそう言っているようだから従おう。


「分かったよ。行こう、森へ」


 そして、僕らは二人――すっかり暗くなった夜道を歩いてレイヴンの森へと向かうのだった。

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