どうして彼が知っている
―学校 朝―
(呪術を生み出したのが……暁様だと?)
そんなこと、僕は知らない。勉強不足ではない。僕の国で、そのことを知る人物など誰もいないのだ。僕が幼い頃、父上から聞いた呪術の話を信じるのなら……。
『巽、呪術は悍ましいものだ。誰も幸せになれない。この国で、何者かによって生み出された恥ずべき魔法。私はそれを滅する。だから、お前も……あいつのように呪術に溺れるでないぞ』
国のことを全て掌握している父上が知らないことなどあるはずもないのに、どうして遠く離れたこの国では当然のように知っている人物がいて、教科書にも載っているのか。写真も名前も説明も正しい。とても、誤った情報であるようには思えない。
(国と共に……呪術を? まさか、それを使って国を? でも、そうだとしたら……何故?)
「皆、開いたかの? えーこの人物はの、日本にある武蔵国の初代王じゃ。まぁ、それは教科書に書いてあるから見れば分かるの。で、この年齢を見て欲しいんじゃが」
教授はそう言って、享年九十四歳と記してある所を見るように促した。
「呪術はの……使う時に自らの命と、誰かの血が絶対に必要になる。血は、まぁええじゃろう、しかし、自らの命が必要となるのなら……呪術を生み出した人物は何故こんなにも生きておるのかの?」
(嗚呼……そうだ。僕が思ったのはそれだ。暁様は……)
「答えは簡単じゃ、年齢を見ればよく分かる。命を犠牲に呪術を使ったのは彼以外の者達じゃ。さて、ここに面白い資料があるんじゃが……これを見ておくれ」
突然、僕らの目の前に画像が現れる。これは、電子魔術と呼ばれるものを利用しているらしい。仕組みはよく分からないが、触れようと手を伸ばしてもそれを触ることは出来ない。熱も重さも、何も感じない。空気上に投影されたもの、しかし見えているのはその魔術をかけられた者だけ。初めてこの魔術を体験した時は、驚き過ぎて椅子から転げ落ちた。
「これは、当時武蔵国に仕えた者達の寿命をまとめたものじゃ。初代王の君臨した期間、およそ四十年分を丁寧にまとめてある。これをまとめた者は、凄いのぉ」
しっかりと、その画像を見た時……世界が停止したのではないかと錯覚してしまうほどの衝撃を受けた。
「……どうして、ですか」
「ん? タミ君何か質問かの?」
「どうして、貴方がこれを持ってるんですか?」
思わず、口から飛び出すように出てしまった言葉達。自身を抑制出来なかった。
当然のように映し出されているこの資料は、僕の国にあるものだ。それは、今もなお大事に保管されている。資料がある部屋からは、簡単に他者が持ち出すことは出来ない。
「ううん? あるものはあるからのぉ、学びの為に生かさねばなるまい。確かに貴重な資料じゃろうが……フフ」
教授は目を細める。
(僕の国は、最近になって海外とも交流するようになったんだ。そもそも、昔の資料なんて公開したこともない……僕は、偶然他の資料にこれが交じってたのを見ただけだ。普通に考えて、出回るなんてありえない。ありえないんだ……)
「さて、話の続きをしようかの。資料を見て分かる通り、皆若くして死んでおるの? そうじゃな~二十三歳の知由という女性が一番若くして死んでおるのぉ。一番生きておる人でも……四十七歳じゃ。極端に低いの。加えて、武蔵国には最近まで医術なるものはなかった。寿命を削り、身を滅ぼした。そんな状態で病気にかかれば、あっという間に亡くなる。呪術の恐ろしさはこれじゃ」
「医術がなかったって本当ですか!?」
誰かがそう質問した。
「信じられんじゃろう、じゃがほんまじゃ。調べればすぐに分かることじゃよ……」
僕は怖い。知ってはいけない領域に足を踏み込んでいる、目の前の人物が。教授の名前も知らない。彼は自己紹介をしなかった。顔立ちから見れば、彼はこっちの国の系統に近い。
なのに、どうしてここまで詳しいのか……僕には分からなかった。




