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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十四章 悪夢の終わりに
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鯛のように釣られる

―屋敷 昼―

 高らかに宣言したアルモニアさんは、右手からステッキを出現させてそれを頭上で器用にくるくると回転させる。すると、回転によって生じた渦に向かって血と破片、そして異臭が凄まじい威力で吸い込まれていった。


「っ、あ……」


 血の臭いが薄れていくのと同時、僕を襲う激痛と額の熱はゆっくりと引いていった。変な緊張が解けて、思わずへたり込む。


「やっと消えたわね、どうやら効果アリって感じ? ど? 話せる?」


 自分のイリュージョンが成功し状況を改善出来たことで、彼女は鼻を高くしていた。


「え、えぇ……ありがとうございます」


 まさか、血の臭いを嗅いだだけでこんなことになってしまうとは。恐らく、今までにない経験だ。血の臭いに高揚感、食欲をそそられたことはある。

 けれど、このように意識がはっきりとした状態で外見的に異変が起こらず、内面的に獣化が進んだのは初めてのことであった。


「良かった良かった、あのままだと意思疎通が出来ないし。さ、私様も貴方が使っていた部屋を見つけたの。とりあえず、そっちを確認してから――」


 僕のその反応を見て、彼女は少し面倒臭そうに扉から出て行こうとした。


「待って下さい。アルモニアさん、貴方は何かを知っているんですよね? 僕には、それを知る権利があると思います。封印とか刻印とか……どういう意味なんでしょうか? 僕の前で、その言葉を言ったんです。嘘偽りのない説明くらい、してくれますよね?」


 無意識に口に出したのだとしたら、あまりに馬鹿過ぎないだろうか。白髪の男に仕える組織の人間なら、自覚のある行動が出来なければ不必要だと捨てられてもおかしくない。無垢な青年を陥れ、幸せに暮らしていた人間とカラスの家族を崩壊に導いたあの男なら、脆さ共々彼女を斬り捨てている方が自然だ。

 これは、あくまで僕の勝手な予測だが――彼女は、あえてその言葉を出したのではないかと思った。あの白髪の男の指示のままに。


「……ククク、ウフフフフ! アハハ、良かったぁ。気付いてくれたんだぁ。ボスに貴方が知りたいだろうから、教えてあげてって言われててぇ。タイミング悩んでたんだよねぇ。ちょっとだるかったけど、こうなってくれて良かったっ!」


 彼女は振り返って、楽しそうに腹を抱えて笑う。監視者である彼女の失言が、命令により意図的であったことに安心感を覚えた。が、その安心も束の間、一つの疑問が脳裏をよぎった。


「どうして、彼は僕に教えろと?」


 彼がどこまでの事情を把握し、楽しんでいるのだろう。一部の真実を明かすことで、何を得ようとしているのか。到底、理解の及ぶ範疇にない。

 ならば、与えられた物で、鯛のように釣られるしかない。釣られることでしか、僕はきっと僕の意思であいつの所には辿り着くことは出来ないだろうから。


「ボスは、貴方に期待している。ただ、それだけだわ。私様は、それに従うだけ。ボスが期待するのなら、私様も期待する。ボスの意思こそ、組織の意思だから。と言っても、私の知っている知識だけしか教えられないんだけどね。さっきも言ったけど、知識しかないの。忌まわしき技術と称されるそれを生み出した研究所の観察者だっただけの私様にはね」


 不敵な笑みに頬を歪めると、彼女は手を振ってステッキを消した。そして、机の上に座って足と腕を組んで、偉そうに自身の境遇と忌まわしき技術について語り始めたのであった。

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