部屋の中にあったもの
―屋敷 昼―
ドアを開けては閉める――その繰り返し。覚悟はしていても、中々堪えるものがある。足がどんどん重くなっていった。推定だが、部屋数は五十近くある。部屋と部屋との間も長く、連続して部屋を確認することが出来なかった。
(今の所、生活のある部屋はなかったな……アルモニアさんはどうなんだろう?)
連絡を取り合う手段が、残念ながらない。なので、各々確認が済み次第、玄関前で報告し合うことを決めた。
(次は、この部屋か)
十数部屋目、半ば投げやりな気持ちでドアを開いた。もわっとした臭いに襲われ、咄嗟に鼻を塞いだ。今までにない異臭だった。
「っ!?」
部屋の中は、今までとは違っていた。ベットや机、棚……生活感がかなり溢れている。そして、置かれている小物は可愛らしい物ばかりだった。僕に、こんな可愛らしい物を集める趣味も飾る趣味もない。
この屋敷で生活していたのは、僕とクロエだけ。僕らが過ごしていなかった場所以外に、生活感は微塵もない。そのことから考えるのは、僕の中で一つだけ。
(ここは、もしかしてクロエの部屋?)
ようやく目当ての部屋を見つけることが出来た。記憶にない屋敷の中を動き回って、疲れ果てていた僕にはいい薬になった。
「よし……」
僕は軽くなった足で、部屋の中へと入る。
(それにしても、この臭いは……)
いくら放置されていたとはいえ、かなり独特で嫌な臭いが部屋を侵食していた。その原因が何であるのか、僕は考えながら臭いを嗅ぐ。その中で、僕は一つの結論に辿り着いた。
(まさか、血か? それに、とても新鮮な臭いだ。乾燥しているような感じはしない……何故だ?)
こんな時に、異常なほどに発達した嗅覚に助けられるとは思わなかった。血液の新鮮さまで判断出来てしまうとは、まさに獣……いや、それ以上だ。
僕の中にいる、彼は無事であったらしい。やはり、なくなってしまったのはアーリヤの力だけ。原因の解明の為にも、一刻も早く何か手がかりを見つけなければならなかった。
(どこからこんな臭いがしているんだ? それらしい物は、どこにも……)
強烈な臭いを辿っていくと、そこにはガラス張りの棚があった。そのガラスの向こうには、赤い液体が入った瓶が沢山あった。その赤さは、まるで――血のようであった。
(この色、そしてこの臭い……じゃあ、ここにあるのは?)
僕は棚を開けて、その内の一つを手に取って眺める。鼻につく嫌な臭いが、そこから発せられている。
「っ……う、やはり本物の血か。嗅ぎ続けると、色々と頭がおかしくなってしまいそうだ」
血に嫌悪感を感じるものの、その奥底にある本能を呼び覚まされるという恐怖もあった。これを近くで嗅ぎ続けるのは、危険だとそう感じた。
(何故、こんな物がクロエの部屋に?)
そう考えながら、僕は瓶を棚に戻そうとした時であった。
「た~つみ、何してるの?」
予期せぬ背後からの声に、思わず僕は瓶を落としてしまった。目の前にある強烈な臭いに気を取られ過ぎて、アルモニアさんの接近に気付けなかったのだ。




