部屋を探し求めて
―屋敷 朝―
綺麗に整備された庭とは対照的に、中はかなり埃臭かった。折角の庭と屋敷の装飾の美しさを掻き消している。
「げほっ! かなり臭い……」
「そりゃそうよ、貴方が自分でそう言ったんでしょ。人がいなくなるだけで、こんなことになっちゃうんだねぇ。てか、生活感なさ過ぎない? ここで本当に生きていたの? どうなってんの、マジで」
確かに、見る限りではほぼ空き家状態だった。何も飾られておらず、何も敷かれていない。そして、この状況は僕が望んだ結果の産物であるらしい。
(恐らく、僕のことだから……慣れない学校生活に手一杯だったんだろうな。それなのに、一人でやろうとして……馬鹿みたいだな)
「生きてましたよ」
「ふ~ん。イケてないし、ダサいの最上級みたいな場所でよく呼吸出来るわよね。私様だったら、窒息してるわ。というか、いつまでも手を握ってんじゃないわよ。気持ち悪いっ!」
「あ……ごめんなさい」
僕は慌てて、手を離した。
アルモニアさんからは、ある程度の事情を聞いておきたい。だから、一緒に来て欲しかった。ただ、あの話を続けたくはなかった。それを、全て勢いだけで解決しようとした僕の落ち度だ。
「ったく、もう。好きでもない男に手を引っ張られても、びっくりするだけだわ。で、私様はここで何をすればいいのかしら」
「う~ん。清掃?」
「清掃って、私様は使用人じゃないのよ!?」
「でも、それをしないと……僕も勿論やりますから」
清掃経験は、ほぼない。だが、やらないことには始まらない。気が遠くなるが、必要なことだけでもやらねばならない。
「ちょっとずつでいいですから、広過ぎますし。とりあえず、こことよく使う部屋を優先しましょう。それで、一体どこがよく使う部屋なんでしょう?」
ここで、過ごした日々をちっとも思い出せない。つまり、どこが何の部屋でどこをよく使っていたのかさっぱり分からないのだ。
「は? そんなの知る訳ないでしょ。私様だって、最近遥々この国に戻ってきたって言うのに。てか、よく使ってる部屋だったんなら、少しは生活感あったりするんじゃないの。ほら、ベットとか……食器とか机とか。クロエもいたんだったら、少なくともクロエの部屋とかもあるはずだし」
「なるほど! 流石の僕でも、床で何もなしでずっと寝ようとか思ったりはしないはずですもんね。クロエもいたなら、クロエの部屋には生活感は溢れてるはずですし」
「まぁ、探すことにはなるけどね。って、これくらい少し考えれば分かることじゃないの? そんなに難しいことでもないでしょうよ」
やれやれと、彼女は呆れ顔で首を振る。
僕は、必要な時に深い所まで考えることが苦手だ。勢いと流れに乗って、そのままやってしまう。それまでの結果が、今までに散々出ている。何故か、不必要な所は深い所まで考えることが出来るというのに。馬鹿極まりない。
「……アハハ、ごめんなさい」
「部屋探しは手伝ってあげる。私様も、生活しないといけないし。掃除は、私様の必要な所だけするわ。じゃ、早速やるわよ。こんなくだらない会話をしてる暇ないわ」
「それは……僕が大変ですねぇ。まぁ、仕方ないですかね。本当は一人でやらないといけないし……」
そして、僕らは別々に過去によく使っていたであろう部屋を求め、探し回るのであった。




