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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十四章 悪夢の終わりに
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主の帰還

―屋敷前 朝―

 目の前が開けた時、景色は様変わりしていた。


「ここは……」


 真っ直ぐな道に沿って、両側に木々が生い茂る。その道の先には、大きな門と二人の人物の姿が見えた。そして、さらにその向こうに大きな屋敷があった。

 僕はこれっぽっちも覚えていないけれど、ここがかつて僕の住んでいた場所らしい。先ほどと同じように、既視感はあった。ただ、それ以上のことは何も感じられない。


「ふふん、どう? これが私様のイリュージョン! 恐れ入ったことでしょ?」

「イリュー、ジョン?」

「そう、このイリュージョンこそが私の本分。どうだった?」


 自慢げに詰め寄られたが、どう反応すべきなのか困った。瞬間移動とは少し違うようだが、特別過ぎる訳でもない。魔法などとは疎い国に住んでいれば、それこそ感激なんてものでは済まないだろうけれど。


「どうだったと言われましても……凄いなぁ? みたいな感じですかね?」

「なんで疑問形なのよ」

「いや……それより、進みませんか? 僕としては、元々住んでいた場所に早く行ってみたいんです。勿論、アルモニアさんのその……イリュージョンとやらに興味はありますよ。でも、今はそれよりも大事なことがある」


 綺麗さっぱり消え去った一定期間の記憶。それに関する場所に戻れることは、とても大きい。全ては戻らないかもしれないが、断片的になら可能性がある。


「ちょっと! 待ちなさいよ。誰がここまで連れて来てやったと思ってるの! ねぇ!」


(本当、うるさい人だなぁ……出会い頭から、今この瞬間までずっと。ちょっとは黙れないのかなぁ)


 親切にし過ぎると、また変に疑念を抱かれてしまうかもしれない。付け込もうとしていると、思われてしまうかもしれない。監視者と監視される側としての距離を保つには、それくらいでいい。

 きっと、クロエと僕はその節度を保てていなかった。お互いに。記憶のない間、本来あるべき間柄を守れなかった。それが、あの惨劇を生み出す一因となったのかもしれない。これからは改めなければ、新たに監視者となったアルモニアさんを守る為にも。僕を、命に代えてでも守りたいなんて思わせてはいけない。


(殺したくない。殺したくない……もう、誰も殺したくない)


 鮮明に焼きついた、クロエの亡骸。真っ赤な絨毯の上で、真っ白になってもう二度と目を覚まさない。あんなこと、もう絶対にしちゃいけない。


(クロエが犠牲になってくれなければ、美月が……なんて、考えなくてもいい結末になっていれば良かった。僕が呪いを制御出来たら良かったんだ。後悔しても、もう何も戻って来ないけれど)


 そんな思いを抱きながら、僕は大きな門の前に立った。すると、門の右側に立っている男性達が口を開く。


「お帰りなさいませ、巽様」

「お久しぶりでございますね。さあ、どうぞ」


 そして、厳かな門はゆっくりと開かれる。


(彼らは、僕の名前を知っているのか……)


「ありがとうございます」


 僕は会釈をして、門を潜った。後ろから、彼女の何やら騒ぐ声がしたが今は気にしないでおこう。彼女の相手をすると、とても疲れてしまうから。

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