彼女に踊らされて
―学校 朝―
その後、アリアと待ち合わせの場所などを諸々決めて一度別れた。
(あの森に夜……? 何をするのかは、結局教えて貰えなかったけれど……あの気迫はただごとではないよね)
あまりいい思い出がレイヴンの森にはないが、他ならぬ彼女の願いだ。僕が伝えたかったことは、そこで言えばいいだろう。それまでの猶予が与えられた、と思えばいい。
「デート、ですかぁ?」
「ち、違います! そんな感じじゃなかったでしょう!?」
「そうですかぁ? いい雰囲気って感じだったので、静かにしてたんですけどぉ」
「違います違います違いますから!」
確かに、愛着のあるペンダントを返して貰ったので、にやけていたのはあるかもしれない。でも、それは素直に嬉しかったから、ただそれだけだ。
「でもでも、女の子に何かを託すなんて……友達以上の関係であるようにしか思えませんがぁ?」
悪戯っぽく笑みを浮かべ、僕を小突く。
「だから、違いますってば! このペンダントは、別に託したって訳じゃないですし……というか、彼女も僕みたいな奴と付き合うほど、暇じゃないですよ」
彼女は笑顔がかなり不気味だが、普通にしていれば相当な美女だ。僕なんかでは、引き立て役にすらなれない。むしろ、邪魔になる。
「そうですかぁ? ネガティブですねぇ。最近は、オラオラ系が女子に人気なんですよぉ? 強引で……自分に自信ありまくりって感じの男子がねぇ。こ~んな風にっ!」
突然、アーナ先生は僕との距離を詰める。それに気圧された僕は、後退りをする。しかし、すぐ壁にぶつかってしまう。すると、それを待っていたと言わんばかりに彼女は素早く両手を壁に叩きつける。
「へっ!?」
朗らかな雰囲気はどこへやら、冷ややかな目で僕を上目遣いで睨みつける。
「俺が認めたお前のこと、自分で貶めてんじゃねーよ。許さねぇからなぁ? そういうことを言うの」
男の僕が、かっこいいと感じてしまう低い声だった。語気も強めで、僕の目の前にいるのが、先ほどまでのアーナ先生と同一人物とは思えなかった。今すぐにでも、僕を殴ってきそうな勢いだ。
「え、えっと……?」
困惑していると、彼女は表情を緩めて穏やかな笑みを浮かべる。
「……みたいな感じでぇ、ちょっと強引? くらいがいいんですよぉ。強気な感じでぇ。まぁ、私の偏見もありますけどぉ。どうでしょう?」
「いや……どうでしょう? って言われても困ります。そんな恥ずかしい台詞、とても素では言いたくないです。それに、こういうのを言って許されるのってかっこ良くて、好意を抱かれている人だけじゃないですか? 事案になってしまいますよ」
一歩間違えれば、警察に連行される案件だろう。僕には、とてもじゃないけど出来る気がしない。
「タミなら大丈夫じゃないですかねぇ。私、結構好みですよぉ」
「……根拠のないことを言わないで下さい。はぁ……もういいですか? 僕、ちょっと色々考えたいことがあるので」
アーリヤの力を感じられなくなった原因、それを調べなければならない。こんな所で、踊らされている場合ではないのだ。
「も~釣れないですねぇ」
彼女は残念そうに、僕から距離を取る。ようやく圧迫感から解放された。
「僕に何を求めているんですか……では、失礼します」
ここで、これ以上過ごしても疲れるだけだ。それより、この奇妙な謎を解かなければ気分が悪いままだ。
「はぁ~い、頑張って下さいねぇ」
ただひたすらに、物凄く疲れただけだった。行く当てはないが、ここで振り回されるよりは歩きながら考えていた方が有意義だろう。
「頑張ります」
そして、僕は部屋を後にした。




