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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十四章 悪夢の終わりに
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呉越同舟

―学校 朝―

 ゆったりとした口調で、女性は僕を気遣う。


「え、えぇ……ぐっすり」


 そもそも、何故ここで眠っていたのだろう。僕は、アーリヤの邸宅でクロエの無残な姿を見ていたはずなのに。瞬きの間に、景色が変わっていた。


「びっくりしましたよぉ、私が戻ってきたら勝手にここで寝てたんですからぁ」

「か、勝手に!?」


 家という感じの雰囲気ではない、何らかの施設であるようだ。それが幸いだった。誰かの自宅であったら、僕は完全に犯罪者だった。


「あららぁ? 覚えていないんですかぁ? まぁ、色々ありましたからねぇ。でも、貴方は参加していなかったんじゃ?」


 彼女は神妙な面持ちで、僕の顔を覗き込む。どうやら、僕を知っている様子だ。学校の関係者だろうか。


「それは……」


 どう説明するべきなのか、僕が選抜者として参加していないのに事件の詳細について触れてしまうかもしれないと上手く言葉を選ぶことが出来なかった。

 そんな口ごもる僕の様子を見て、彼女は堪え切れなくなったように吹き出す。


「ウフフフ! 意地悪を言ってごめんなさぁい。別に言わなくても大丈夫ですよぉ、ちょっとからかってみただけですしぃ。ほら、本当は不参加だったリアム君もちゃっかり戦ってましたからねぇ。それに、悲惨な現場だったことは間違いありません。下手に言葉に出して、思い出したりしたくないですよねぇ?」


(じゃあ、なんで聞いてきたんだ……)


 とは思ったが、口に出る前に何とかそれを飲み込んだ。不自然な事情は、選抜者という肩書きのお陰で勝手にどうにかなった。


「あっ! そういえば、私がつけっぱなしにしていたテレビを聞きましたかぁ?」


 彼女はハッとした表情を浮かべて、顔を離す。


「そりゃあ、起きたら音が聞こえたので……」

「関わっていたから、ある程度は当然知っていますけどぉ。改めて、こう第三者的に見ると……とんでもないことになってるんだなぁと思いません?」

「そう、ですね」


 この人は、思い出させない気はあるのだろうか。自分で言っていたのに、事件のことばかり尋ねてくる。


「あの事件に関わっていたのは、ほとんどが人間ですぅ。警察関係者や学校内に併設されているカフェの店員……そんな彼らの思惑を打ち砕いたのは、人間達が忌み嫌う鳥族のカラスだった……綺麗な筋書きですよねぇ」

「気に入らないんですか? もしかしたら、これがきっかけで友好関係が構築されるかもしれないのに」


 敵である人間を救った理由は、その因縁を知らぬ僕には分からない。正直、何か思惑があるような気がしないでもないのだが、部外者があれこれ考えても仕方がない。


「いいえ、気に入らない訳ではないんですよぉ。むしろ、大歓迎ですぅ。これで、ようやく……」


 何か思いをはせるように、彼女は目を閉じる。


「ようやく?」

「長い種族間における、醜悪な争いに終止符が打たれる日が来るかもしれないと思うと、何だか感慨深くてぇ。この国にとって、歴史的な日になるんじゃないかってぇ」

「歩み寄りには、どちらも大きな一歩を踏み出さなくてはなりませんからね。後は、人間側がどうするか……いい結果になるといいですね」


 一度道を違え、憎悪を歴史の中で増していく。その溝は深いことだろう。それでも、彼らが人間を助けたのには大きな意味があるだろう。気まぐれや戯れなどではないはず、何か伝えたいことがあったから言葉ではなく態度で示したのだと思う。


「そうですねぇ、私はただ眺めることしか出来ませんがぁ。でも、歴史ってこうやって作られていくんですよねぇ。多くの者はただ傍観し、勝者が作った歴史を受け入れていく。そこでどんなことがあったか、なんて大半が考えもしません。歴史も記憶も、圧倒的な力を持つ者が望むままに出来る……脆いものですよぉ」

「え、えっと……?」


 彼女の雰囲気が、少し変わったような気がした。色々あったせいで、僕が敏感になり過ぎているだけかもしれないのだが。それで、困惑してしまった。


「ウフフ、ちょっとかっこつけてみただけですぅ」

「そうですか……えっと、あのこういう話をしている最中に申し訳ないんですけど。ここは……どこ何でしょう?」


 これ以上この会話を続けるのは、ややしいことになるような気がして僕は話を変える。すると――。


「えぇ? 私を、からかっているんですかぁ? ここは学校に決まっているじゃないですかぁ。冗談を言って、私を楽しませようとしているんですぅ?」

「が、学校!?」

 

 学校は、アーリヤの力を宿す者を殺すほどの力によって包まれているはず。僕は死なないが、それなりのダメージは受けるはず。恐る恐る意識を集中させてみると、衝撃が僕を襲った。


(あれ? アーリヤの力を感じない? 何故? 僕は確かに取り込んだはず……逃げられた?)


 緊張感と焦り、沸々と湧き上がって来るのを感じた。

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