変化の時
―学校 朝―
目が覚めると、僕は清潔感溢れるベットの上にいた。爽やかな朝とは対照的に、何やら部屋が騒がしい。
(誰かが喋ってる? 音的には、テレビか? 何だろう?)
僕は、そのまま音に耳を傾ける。
『――先日、タレンタム・マギア大学で起こった事件について、キャンベル学長が取材に応じました』
昨日、タレンタム・マギア大学で起こった事件と聞いて、僕は瞬間的に全てを悟る。何せ、その事の一端を僕は担っていたのだから。力で操ったマフィア達に、暴動を起こすように命令した。その先がどうなったのか、僕は知らない。
『我が大学では、最近不審な出来事が相次いでいました。その為、学生の立ち入りを一部を除き制限していました。建物の一部の破損や、教職員の負傷もありましたが、ここでの被害は最小限でした。しかし、この大学の外、マフィア達の根城であるコットニー地区に勇気を持って向かったジェシー教授と選抜者達の命は無残にも奪われてしまいました。全ては私の責任です。罰は何なりと受けましょう。ですが、立ち向かった彼らの意思をどうか侮辱することはやめて頂きたい。学校の為、国の為に立ち向かった彼らの意思を冒涜するのではなく、優しく理解して貰いたいのです』
(建物の一部と負傷程度か。どうやら、こっちの計画は全て失敗したみたいだ)
この学校は、太平の龍の一時的な聖域として扱われていることを認識していた。故に、破壊する必要があったのだ。アーリヤの力を宿している者は致死量のダメージを受ける。アレンさんやアシュレイさんは、あえて力を宿さず潜入者的な役割を担っていたらしい。
(……ここは、どこなんだ? どこかで見たことがあるような気がするけど、外の様子が確認出来ないから何も分からない)
『そして、この事件では語らなければならないことがもう一つあります。校舎への被害が最小限で済んだこと、コットニー地区での膨大な被害状況を把握出来たのには理由があります。世間の皆様に、嘘を伝えることは出来ません。一つの真実として、受けとめて頂きたいのです』
真実という単語を聞いて、僕の心はズキリと痛む。今回の件については、当然ながら僕は真っ黒だ。それに、僕は常に真実とは対照的な位置に存在している。もしも、それがバレていたらと怖くて血の気が引いた。
『マフィア達の襲撃から救って下さったのは、カラスの皆様でした。先入観から、私達はいくらかの不適切な発言をしてしまいました。ですが、彼らはそれについて何を咎めることもせず、ただマフィア達を圧倒していました。亡くなった者達の遺体を綺麗にし、丁寧に引き渡して下さいました。そして、何か要求する訳でもなくそのまま去ってしまいました。私達の認識は間違っていたのかもしれません。彼らは全て、悪だという認識は……変化の時は来ているのではないでしょうか』
切実な訴えかけるような声だった。鳥族は総じて悪であり、カラスはその中でも凶悪だという考えが当たり前の国。この発言に、どれだけの覚悟があるのか……僕には推し量れない。僕の記憶の中では、そんなにしっかりした人に学長は見えなかったけれど。
(権力に簡単に屈しそうな、ゴマすって生きてそうな人だった……ような)
この学校での僅かな記憶を頼りに、そんなことを考えていると扉から白衣を着た女性が入ってきた。目と目が合うと、彼女は優しく微笑む。
「おはようございますぅ、ぐっすり眠れましたかぁ?」




