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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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予測不能

―N.N. アーリヤの邸宅 夜―

 亡骸と瓦礫の間を通り、豪華な建物の中へと入る。多少の損壊があるものの、建物は昔と全く同じであった。そんな感慨に浸りながら、とある一室を目指して歩き続ける。


(あの頃は知らなかった。あの部屋が、この屋敷の一部だったなんて)


 もしも、知らなければ――こんなことには、なっていなかったかもしれない。時代の変遷を、繰り返され続ける過ちを見届けることはなかったかもしれない。全てが壊された時、自分の人生は始まり――狂い始めた。


(自由も世界も自分も、家族のことも知らないままでいたら……何も感じずに死ねたんだろうなぁ)


 今や、どう足掻いても死ねぬ体だ。別種族同士の醜い争いは終わらず、平和はほど遠い。因縁は切れ目なく、むしろ憎悪を増して連鎖する。一度でいいから見てみたかった、手を取り合い平和な無駄な殺戮が行われない世界を。

 それは、綺麗事では成せなかった。だから、どんな手段を使ってでもこの世界から争いを消す。どんな悪にでもなる、その為なら犠牲もいとわない。一瞬でいい、わだかまりが解けた人々が過ごす平和な日常を見てみたい。


(普通、過去は変えられない。なら、これからを変えるしかない)


 そんなことを考えながら、とある部屋の中へと入る。あの頃の自分が存在を知らなかった部屋だ。恐らく、家族団らんの場所。そこには不釣合いの血の臭いがあった。


「血生臭いな……いるんだろ? 十六夜 綴」


 姿は隠していても、身に余る力は溢れている。


「フフフ、いるよ。わざわざフルネームでありがとう」


 待ちきれなかったと言わんばかりに、巽君の姿を借りた十六夜が柱の陰から姿を現す。


「どういたしまして。その様子だと、しっかりと巽君の体でアーリヤの力を取り込んだらしいね」

「素晴らしいよ。想像以上だ」

「で……何故、こんなにも血生臭い? 切り傷程度ではこうはならないと思うんだけど」

「……ん? お得意の推測は出来ないのか? まぁ、そういうこともあるか。ちょっと、その角度からでは見えないか。ほら、ちょっとこっちへ来なよ」


 彼に促されるまま、自分は一歩ずつ近寄っていく。すると、見えたのは血溜まりの中で微動だにせず倒れているクロエの姿だった。


「クロエっ!」


 頭を殴られたような衝撃だった。考えるよりも先に足が動き、血の気を失ったクロエの傍に駆け寄っていた。胸からの出血が酷い。傷を見るに、貫かれたと考えるのが妥当だろう。


「死んでるよ。殺されたんだ、巽の呪いに」


 そんな自分を見て、馬鹿にするように笑う十六夜。


「……痛かっただろうに。こんな死に方、自分ならさせなかった。どうして、どうしてだ?」

「彼女は、美月の身代わりになったんだ。本当なら、ここで死ぬ運命ではなかったのに。呪いからは逃れられない。彼女の意思だった。かっこ良かったよ~」


 まさか、自分の期待していた事態がこんな形で起こってしまうなんて。どれだけの覚悟を、どれだけの痛みを背負ってクロエは代わりになったのか。生きてきた意味を捨ててまで……例え、それが自分の植え付けた記憶だったとしても。彼女の心の支えとして、とても大きかったはずなのに。


「君もそんな顔するんだね。予想外だったのかな? 良かったじゃない」

「良くない、良くないんだよ。痛みに悶えながら、死に絶えるなんて……」

「彼女の決断だから、それを受けとめようよ。それよりさ、褒美は貰えないのか?」


 クロエの死など興味ないとでも言わんばかりに、彼はそう言葉を発する。そんな奴であることは知っている。が、今この瞬間のその言動は不快以外の何物でもなかった。


「そんなに欲しけりゃくれてやる。君と一緒に過ごす時間が、今はただ無駄だ。城の王の間へ行け、そこに望みの物はある。最も、気に入るかは分からないけどね。ただ、選ぶ余裕はないだろ。潜在魔力は十分だ。さあ、さっさと消えてくれ」

「フン……分かってるよ。わざわざどうも、失礼する」


 彼は鼻で笑って、アーリヤの力で黒い空間を生じさせ姿を消した。部屋に残るのは、私とクロエだったものだけ――。


「苦しみを与えたくはなかった。こんなこと……こんなこと、予測になかった。自分の至らなさが、君にその決断をさせてしまったというのか? こんな死は認められないよ。クロエ……」


 これだけの傷でありながら、彼女の顔は安らかなものだった。立場上、彼女には厳しく接さざるを得なかった。自分は全てを把握しているつもりだった。けれど、巽君との関わりによって影響を受けた彼女のイレギュラーな心の変化には気付けなかった。

 それが良かったのか、悪かったのか――それを決めるのは彼女自身。一体、何をどう思っているのかもう分からない。死んでしまったから、予測出来ない。この世界の理から外れたものを、予想することは出来ないのだ。


(こんなこと、もうあってはならない。絶対に! 彼女は、仲間達には安らかなる死が必要なんだ。でなければ、あまりにも……)


 そして、決意する。更なる、計画の徹底を。仲間達に安らかな死を与える為、この世界を平和な状態で終わらせる為。

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