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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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奇妙な気配

―アリア アーリヤの邸宅 夕方―

 息絶えたクロエちゃんの近くに座り込み、うなだれる巽。私達が名前を読んでも、応答はなかった。私は知っていた、クロエちゃんが全てを見届けることなく亡くなっていたことを。


『――私を、瞬間移動させて欲しい』


 美月さんからそう頼まれ、言われるがままに私は彼女を瞬間移動させた。そして、私はただその奮闘の様子を見ていた。瞬間移動には大量の魔力の消費が伴う為、下手に動けば邪魔になると判断したからだ。加えて、私は誰かといると存在に気付かれてしまう。だから、息を殺して勝利を願い続けていた。

 その最中に、クロエちゃんの命の灯火が消えていっていることにも気付いた。だから、私が何も考えず咄嗟に近寄ろうとしたら、彼女は微笑を浮かべ「来ないで」と口をゆっくりと動かした。そんなことをする余裕なんて、とっくになかったはずなのに――彼女は最期まで見通し、冷静に考えていた。


(クロエちゃん……ごめんね。私のせいで)


 最後の手段を、もしかしたら使わせてしまったのかもしれない。もっと早く私が音の導きを辿れていれば、もっと私が役に立っていれば、そもそも昔の私に責任感さえあれば、今の私にも力があれば、この時代に生きる年頃の女の子を巻き込まずに済んでいたのかもしれない。後悔はいくらでもある、私の過去は真っ暗だ。アーリヤよりもずっと罪深い。最低最悪の罪人だ。


(私が……美月さんの代わりになれていたら)


「巽ってば……まったく、もう」


 悔恨の渦に飲み込まれている私の隣を、恐ろしいくらいの冷静さを取り戻した美月さんが通り過ぎていく。あれほどまでに感情を爆発させ、恐ろしいくらい強大な魔力を生じさせていたのが嘘のよう。今の私には、彼女が何を思い何を考えているのかちっとも分からない。ただ、巽の所へと真っ直ぐに向かっていった。

 すると、それに気付いたのか、ようやく反応を示して巽はよろめきながら立ち上がり――手を少し上げた。すると、突如として糸が切れたように彼女は崩れ落ちた。その瞬間、私は奇妙なものを見た。


(気のせい……? 一瞬、巽の手が紫色に光ったような。でも、それは美月さんを攻撃したってことになる。なら、今のは一体?)


「美月さんっ!?」

「大丈夫、ちょっと眠っているだけだ。疲れてしまったんだろう、無駄に頑張ったから。それで、なんだけど……アリア? だっけ。君に頼みたいことがあるんだ」


 彼は振り返りながら、何事もなかったかのように落ち着いた口調で話を続ける。うなだれて落ち込んでいた人と、同一人物には見えない。まるで、別人になってしまったかのよう。アーリヤの傀儡となっていた時とはまた違う。雰囲気や立ち振る舞いが、私の全く違う人と相対しているかのようであった。


「……もう少し、ここでやらなければならないことがあってね。悪いけど、美月を持っていってくれないか」

「それは……そんなに大事なこと?」


 根拠はないが、胡散臭さを感じて思わずそう問いかけてしまった。先ほどまで死に心を痛めていたはずなのに、そんな気配すら感じさせなかった。


「嗚呼、大事も大事だ。まだ残党もいるかもしれないし、一匹残らず駆除しておかないと後々困るはずだよ。いいね、アリア? それに、君もこんな所に長居したくないだろう?」


 薄ら笑いを浮かべた後、彼は再びクロエちゃんの方に体を向けた。


「それにねぇ、仲間の死は一人で尊びたいものだから。いいよね? クロエのことは、任せて?」


 遠回しに、邪魔だから出て行けと言われているような気がした。何とも奇妙で気味が悪い。それに、美月さんのことも心配だ。とりあえず、外に出た方がいいだろう。ジェシーさんや他の皆の無事も気になるから。そして、伝えねばならない。ここで起こった全てのことを。


(なんだろう? でも、きっと色々考え過ぎて、ちょっと混乱してるだけだよね。巽だって、いっぱい悩んでるんだ。だから、こんな――おかしなことを言ってる。もうアーリヤから解放されて、彼の意思で行動している。だから、クロエちゃんのことは彼に託しても大丈夫だよね。きっと……)


「早くね……クロエちゃんも、こんな姿じゃ可哀想だから」

「嗚呼、可能な限り頑張るよ。さあ、早く」


 不思議な気持ちを抱いてたものの、彼の威圧感と私自身早くここを出たかったのもあって、気絶する美月さんを何とか背負って私は部屋を出た。

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