その悲劇の幕切れに
―アーリヤの邸宅 夕方―
「きゃああああぁぁあ゛あ゛ぁああっ!」
絶叫を上げるアーリヤの姿を見届けながら、僕は力が満ちていく快味を感じていた。
(なんて力だ……一人では、叶わないはずだ)
僕の中に流れ込んでくる彼女の力は邪悪そのものであったが、その強大さは確かであった。これを取り込めば、僕はきっと強くなれる。飲み込まれてしまわないように、この大き過ぎる力を飼い慣らせるような心を持たなければ。
(どんな力でも、使い方を誤らなければ……問題ないはずだ)
「お、ろかな……実に……愚かじゃ」
小さな粒子となって僕に吸い込まれていく彼女の姿は、透き通って徐々に見えなくなる。その最中、まるで遺言でも残すかのように彼女はそう呟いた。そんな彼女に対し、僕が言えることはたった一つだけだった。
「さようなら、アーリヤ」
もしも、美月達が命を張って僕を助けに来なければ……こんな結末を迎えることは絶対になかっただろう。僕はずっと大切なことを忘れたまま、忠実な下僕として永遠を生きていたに違いない。
あれほど僕を苦しめた彼女の姿はもうない。最初からいなかった、全て悪い夢だったと言っても誰も疑わないだろう。存在というのは、なんて脆いのか。どれだけ強い力を持っていても、それを誇示するだけの器がなければ意味がないのだ。
(これで終わりか……なんて呆気ないんだろう。さっきまでの苦労はなんだ? さっきまでの苦労があったから、今があると思えばいいのか……)
力を吸収したお陰か、身体にはそんなに倦怠感はなかった。むしろ、調子がいいくらいだ。
(美月やアリア、そしてクロエがいなければこの未来は……っ!?)
それぞれの表情が脳裏に浮かぶ。そして、クロエの顔が浮かんだ時……僕はある事実を思い出した。死の呪いを美月の代わりとなって受けた彼女は、血まみれになって僕に全てを託した彼女は――。
「っ!?」
僕は慌てて、クロエの倒れている場所に向かって駆けた。彼女は血だまりを作ったまま倒れ、微動だにしていなかった。絶望的な状況、距離が近付けば近付くほど現実も迫り来る。
それでも奇跡を信じたかった、奇跡を見せて欲しかった。僕のせいで、その命の花を散らして欲しくなかった。
「……クロエ?」
僕が隣に座っても、彼女は一切の反応を示さない。全部演技であって欲しいと願いを心に秘めながら、まるで、蝋人形になってしまったクロエの脈を恐る恐る取った。
「あ、あぁ……あぁ」
――彼女の脈は、とまっていた。分かり切っていた。目に見えていた。僕は救いようがない人殺しだ。僕が余計なことをしなければ彼女は死ぬことなんてなかったのに。僕のせいだ、言い訳のしようがない。
「「巽っ!」」
背後から聞こえた二人の声も、どうでも良くなるくらいショックだった。全て終わった、終わらなくていいものと共に――。




