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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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渇望せよ

―アーリヤの邸宅 夕方―

「美月!?」


 普段の無が想像もつかなくなるくらいの笑顔を浮かべ、顔を真っ赤にする美月。この場でなければ、僕はきっと倒れていた。何なら気絶していたかもしれない。それほどの衝撃だった。


「うふふふ~♪ そんなに驚いた顔しないでよ~力を貸すだけなんだしさぁ」


 こんな弾けた美月を見たのは初めてだ。ただ、感情を爆発させた姿なら何度か見たことがある。そして、それは全てあることをした場合に起こる。


「酒を……飲んだのかっ!?」


 もっと深く突っ込みたい所ではあるが、状況が状況。力が抜けた相手の隙を突くことが出来たとは言っても、油断ならない重要な局面であった為、確認の為の問いかけが精一杯であった。


「だぁいじょ~ぶ、思ったよりコントロール出来てるからぁ。それより、もっと力がいるんでしょ? 助太刀してあげるって言ってんだから、そんな顔しないでよ」

「そういう問題じゃ――」

「あ~もう、ごちゃごちゃ言ってんじゃないわ! 私が大丈夫だって言ってるんだから、大丈夫なんだよ! この馬鹿弟が! 今は私より、あの女に集中しなさいよ! そんなんだから、いつまで経っても私がこうやって世話焼いてやらないといけなくなるんでしょぉ?」

「あぁあああ! もういい! うるさい、言われなくても分かってる!」


 誰のせいでこうなっていると思っているのか。だが、美月の言っていることも正しい。一々対応していたらこのチャンスを逃してしまう。追求するのは、後からだ。僕がいて、美月がいる未来を掴まなければ後は訪れない。


「それでいいのよ~うふふふ。食らいなさい、アーリヤ! 私達姉弟の力を!」


 僕の放つ力に、美月の力が加わる。再び均衡状態に戻ろうとしていたが、ようやく目に見えて僕らの力が上回り始めた。


「っ! 人というのは一人で戦うことすら出来ぬのか! 弱い、あまりに弱い!」

「そう、人は弱いわ。だから、こうやって手を取り合うの!」


 美月は怒りを滲ませ、力強く叫ぶ。それに呼応するかのように、さらに力が高まっていく。


「開き直りか! ふん、捻り潰してくれる!」


 アーリヤの額に汗が浮いているのが見えた。言葉や態度は高慢そのものであったが、心を映す鏡である身体は素直に彼女の気持ちを見せていた。


「認めざるを得ない、僕は弱い。僕だけの力では、貴方に歯向かうことすら叶わない。だけど、いずれ……いずれ必ず! だから、今は僕は……美月と共にっ!」


 絶対に強くなってみせる。自分の力で、安寧をもたらす居場所を手に入れる為、もう一人の自分を超える為。しかし、そんな決意を軽々しく彼女は嘲笑う。


「ハハハハハ! そなたに、その器はない! わらわの力自体はすぐに受け入れたその脆さ……強くなれる訳がないであろう。お主は永遠に誰かに頼らねば、生きていけぬ。生まれ持った弱さ。それはそう簡単には変えられぬ。口先だけは立派じゃが、自分自身のことはよ~く分かっておるじゃろう? そなたは永遠に強くなどなれぬ。弱者は永遠に弱いだけ。仮初の強さを強者から得られるだけじゃ」


 彼女は、僕を貶めようとしている。心では理解していても、それは僕の幼少期からの傷を抉った。どれだけ重ねても、生まれ持っての才能に溢れている者には追いつかない。永遠に埋まらぬ差、弱者と強者は生まれながらにして土俵が異なる。僕が勝負しようとしているのは、あくまで弱者同士の土俵。もう一つの土俵では、僕一人だけでは絶対に――。


「いい加減にしろ、馬鹿女! 巽のことを馬鹿にしてんじゃないわよ、糞女が! 何も知らないくせに、偉そうなことばっかり! むかつく、そういう奴! 絶対に絶対に絶対に! 許さないっ!」


 僕の心を蝕んでいくアーリヤの言葉を、美月が吹き飛ばすように一喝した。表情には、はっきりとした怒りが浮かぶ。憤怒という言葉がよく似合う表情だ。

 そして、その感情に沿うように美月の魔力が肥大していき――瞬く間にアーリヤの力を押していった。


「私は絶対にあんたを許さない、絶対に!」

「馬鹿なっ! ただの人間如きにこんな……」


 予想外の出来事であったのだろう、ついにアーリヤはその場から逃れようとする素振りを僅かに見せた。


「っ、逃がすものかっ!」


 もはや、アーリヤの力を押しやるのに僕の力は不必要だと判断した。美月だけで十分過ぎるくらいだと。複雑な気分ではあるが、事は弁えよう。


(今の僕に出来るのは、鎖で彼女を拘束――)


 ――違うだろう、奪うんだよ。もっと強くなれるのに、勿体ないことをしてはいけない……さあ、奪え!――


(そうだ。奪わなければ、力が僕にいるんだ……もっと強くなれるアーリヤの力を取り込めば……)


 この世に存在するはずのない、僕の最も憎む人物の囁きが聞こえた。けれど、それに促されるように……気が付いたら僕の体は動いていた。力に圧倒されるアーリヤの下へと。美月の咎める声が聞こえた気がするが、とめられなかった。


「アーリヤ……」

「そなた一人であったのなら……しかし、事実は受けとめるしかないのぉ。わらわをここまで追い詰めるとはのぅ。悔しいが、わらわは引き際は理解――」

「理解? なら、遅かったんじゃないですか? もう、貴方は……僕のものだ」

「な……っ!? 馬鹿な、こんなっ! わらわが人間風情に取り込まれるなど……!」

「残念でしたね、人間風情に……こんな風に取り込まれてしまうなんてねぇ!?」


 混乱するアーリヤに、僕は腕を広げて迫る。何故か、僕には分かった。彼女ごと力を取り込む方法が。誰かが、僕を見えない所から操っているような……そんな感覚に陥っていた。けれど、後には戻れなかった。進むしかないから、奪わなければいけないという使命感に駆られていたから。

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