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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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漲る力の正体は?

―アーリヤの邸宅 夕方―

「きゃあっ!?」


 アーリヤ様の放った魔法に当たり、アリアは壁へと激突する。勢いが凄まじかったのを示すように、彼女は壁にはまってしまった。


「アリア!」


 それを助けようと近寄る美月を、アーリヤ様は高笑いをしながら同じように吹き飛ばした。


「アハハハハ! 揃いも揃ってどうしようもない弱さじゃのぉ。特にアリアじゃったかの? よくもまぁ、こんな弱さでこの場におれたものじゃ。しかも、そんな役立たずを助けようとするとは……愚か極まりないわ」


 隣り合わせで壁にはまってしまった二人。しかし、二人の瞳にはまだ炎が灯っていた。絶望的な状況でも、何も諦めていないのだ。


「仲間は……助け合うってことを知らないのかしら」

「仲間? 笑わせるわ。それほど長い期間一緒にいた訳でもあるまいに、気安くそれを思うから本来の強さを発揮出来ないのであろう? まぁ、それでも今のわらわの前には圧倒的に無力じゃがのぉ」

「目的を一緒にここまで来たんだ。力なんて関係ない。巽を絶対に助ける。私達は、助けられるまで負けたりなんてしないから。それにしても、可哀想な人……今まで本当の仲間って呼べる存在がいなかったから分からないのかしら」


 美月の挑発に、アーリヤ様の顔から笑顔が消える。


「……仲間? わらわにあるのは、駒だけ。必要となれば求め、邪魔となればわらわの手で排除する。仲間など、足かせにしかならぬわ」

「そんなの……そんなの間違っています! 同じように生きているのに、どうしてそんなことが言えるんですかっ!? どんな形でも、貴方達だって一緒に過ごしてきたのでしょう!?」


 アリアのその言葉を聞いて、僕の脳裏にはここで過ごした日々を思い出した。新たな居場所として、間違いなく心の拠り所となっていた。満たされていた。周りにいるのは、普通とは違う者ばかり。人間という枠から外れた自分がいて許される場所だと思った。思っていた。


「く゛っ……ちゃんと、聞いた? 美月達がここまで頑張る理由。貴方を……救いたい、守りたいからだよ。ねぇ、巽君。貴方は、何の為にこの国に来たの?」

「私が……僕がこの国に来た理由? それは……国や民を守りたかったからだよ。ハハハ……」


 僕の国に蔓延る忌まわしき技術の解析、その為にはこの国に来る必要があった。僕と同じような被害者を増やしたくなくて。それだけの思いで、僕は言語を取得しこの国へ単身訪れた。

 しかし、その知識を身につける前に慣れない生活や懐郷病で僕の心は蝕まれ、限界へと達していた。僕はこんなにも追い込まれているのに、国は何事もなく回っていく。自身の必要性への懐疑心が生まれた。加えて、僕のせいで人が死んだ。耐えられなかった。そんな中で出会った――アーリヤ様に。


「……今は?」

「今の僕にそんな資格なんてない。いてもいなくても一緒の僕に、国を守るなんて……出来る訳がないんだ」

「だからっ……どうして、自分で一線を引くの。こんなにも、貴方の為に頑張ってる人達がいるのにっ! 巽君がいなきゃ、駄目だって思ってるからここまで……命を張ってるの。命を……!」


 すると、クロエは覚悟を決めたように一息ついた。そして、勢い良く剣を自身の胸から抜いた。今まで止血の役割をある程度担っていた物、それが抜かれたことでさらに血が溢れ出す。


「何を!?」

「これが……はぁっ、私のっ! 覚悟だから……剣を取って、アーリヤを……消して」


 荒々しく息を吐きながら、彼女は剣を差し出す。異常にも程がある、命を自分で削り続ける行為。


「気付いてよ。本当に巽君を、巽君として見てくれている人達のことに!」

「僕を……僕として?」


 僕は、再びアーリヤ様に追い詰められる二人に視線を向けた。どうにか壁から抜け出そうと必死に足掻いている。クロエも美月も、そしてアリアも――こんなに苦しい思いをしてまで、僕なんかを……迎えに来てくれた。自分のことを投げ捨ててまで。

 アーリヤ様は、僕を役立たずだった罰だと切り捨てたにも関わらず、彼女らは僕に価値を見出してくれた。いや、価値なんて彼女らの行動の中には含まれていないのかもしれない。ただ、純粋にクロエが言うように、僕を僕として見ているからこそ。それは、恐らく信頼を置く者達の間では当然のこと。


(なんだ、この温かい気持ちは……それに、何だか力が溢れてくる)


 この気持ちが何なのか、僕は知っていた気がする。クロエの言葉が、僕の心にあった揺らぎを大きく、奥底で眠っていた何かを掘り返す。失われていた気力や魔力が、それを源にしてか徐々に漲ってくる。


(不思議だ、この力が彼女らにあるから……ここまでのことが出来るのか?)


 そして、一つの決心が芽生える。これは、反逆。失敗すれば、ただじゃ済まない。けれど、やらねばならない――そう思った。


「私だって……私だって……! 馬鹿みたいだって滑稽だって思う? そう思うなら、思えばいい。でも、それが心だから。自分じゃどうにもならないのが、心だからっ! う゛う゛……私だってやりたいこといっぱいあった。だけど、それ以上に――」

「もういい。分かった、もう分かった。もう十分だ」


 僕は剣を手に取り、素早く三人が対峙する場所まで間合いを詰めた。僕とアーリヤ様は繋がっている、気付かれる前に行動に起こさなければならなかったから。


「――戯言ばかり。まぁ、もう良い。ここで、そなたらは終わりじゃ。ん? なんだ、わらわの力に……っ!?」

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