闇の中へ
―アリア アーリヤの邸宅 夕方―
私は、すがるような気持ちでペンダントを握る。
(お願い。もう一度、あの力を……)
危機的状況で、一度は巽と守護者様をしりぞけた力。コントロールするよりされる側、私が使いたいタイミングで解放出来るものであるのか分からない。が、分からないからという理由で怯んでいる暇はない。
(お願いっ!)
しかし、どれだけ祈ってもペンダントの力は解放されない。ただ、巽が付近にいるという旋律だけが響くだけ。未熟な私の願いなど叶えるつもりなどないということだろうか。
「駄目……全然、反応がありません」
「えぇ!? マジか、う~ん。う~ん……」
「どうしましょう……このままじゃ……」
もたついている間にも、ドールのまとう黒いオーラは濃くなっていく。このままでは、再び幻惑の魔法を使われてしまうかもしれない。あんな光景を二度も見せられたら、精神が持たない。
「あんた、どんくらい余力ある?」
何かを閃いた様子で、クロエちゃんは問いかける。
「え? えっと、先ほどの歌や光のお陰で通常通りくらいには……で、でも一体?」
「さっきいっぱい力を使ったから、疲れちゃった~……的なことになってるのかも。要するに力不足ってこと。ここを解決しないとどうにもならない。かといって、一人だけで力を注ぎこむのはリスキー。なら、二人でやるってのはどうかなぁと思って」
「なるほど……」
先ほどの強大な魔力の解放、それが影響している可能性は捨て切れない。魔力の譲渡は代償もあるが、元々はペンダントから貰ったものだ。
それに、クロエちゃんも言ったように巽の所へと向かう為にもその力は必須だ。
「では、クロエちゃんもこのペンダントに触れて下さい。共にやってみましょう」
「うん」
そして、私達は魔力をペンダントに注いでいく。
(お願い。お願いだから力を貸して。貴方に魔力を返すから……その力がないと、巽も救えない! まずは、目の前にいるこの子を呪いから解放してあげて……貴方だから出来るの!)
ついで、私は再び強く願った。このペンダントには意思があるような気がする。だから、強い気持ちを持って語りかければ分かってくれると思った。
(私達には……貴方しか――)
魔力が体内から失われていくを自覚し始めた時、ついに私達の思いが届いた。眩い温かな光と歌声がペンダントから飛び出して、全てを包み込んでいった。前よりもずっと優しい力だ。まるで、天使の羽にでも抱かれているような――そんな気分だった。ただ、その時は短かった。体感としては、数分程度のものだった。
「いない……ですね」
そして光が完全になくなった時、ドールもまた姿を消した。視界がはっきりとしなかったので、光によって彼女を解放してあげられたのか分からなかった――が。
「感謝申し上げます……どうか、キング達をお願い致しますわ」
すっかり穏やかな落ち着きを取り戻した声で、そう聞こえた。
すると、何もなかった壁に歪みが生じて扉が姿を見せる。どうやら、彼女が入り口を開いてくれたようだ。深い闇が扉の向こうには広がっている。
「クロエちゃん、行きましょう。今度こそ、彼を」
「うん、分かってるよ。託されちゃったしね」
そして、私達は闇の中へと足を踏み入れた。




