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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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立ちはだかる壁

―アリア アーリヤの邸宅 夕方―

「――こっち方面みたいです!」


 私達はペンダントから鳴る僅かな音楽を頼りに、タミ改め巽の居場所を突きとめようとしていた。美月さんの行方も気になるが、彼女なら多分大丈夫だと信じ、本来の目的である彼を救うことを優先させた。きっと、彼女もそれを望む――クロエちゃんの提案だった。


「突っ込むだけ野暮だと思うけど、あんたも巽君の居場所が分かるのかぁ。お陰ですっごい助かってる訳だけど」


 私の背後を走りながら、彼女は引き気味に言った。


「え? どういうことでしょう?」

「いや……その、美月も巽君の居場所が分かってさ。まぁ、あの人の場合、本能と感覚的に察してるみたいだからあんたのとはかなり違うけど。巽君がいつも身につけてたそれ、立派な物だったのねぇ」

「そういうことでしたか。でも、私は凄くないですよ。私はただ、音に従っているだけですし。これがなかったら、さらに大変だったかもしれません」


 美月さんが自分の能力で彼を見つけ出せるのに対し、私は所詮ペンダント頼り。条件が違い過ぎる。天秤に乗せるのも恥ずかしいくらい。

 けれど、今私の手の中には確かにペンダントがある。きっと、それには意味がある。何かの巡り合わせとして。


(ずっと、これだけが手がかりだった。必ず鳴る訳ではなかったけど、これがなければ見つけ出すことも頑張ることも出来なかった。私なんて所詮、彼の人生のほんの一部だけしか一緒にいなかったのに。きっと、これも何かの縁。力になりたいわ)


「音の違いって奴? こっちからしたら、あんまり分かんないよ。さっきみたいに大きかったら、分かりやすいけど。対したもんだ」

「う~ん。じゃあ、これが私の特技なんですかね?」

「そうなのかも。音の聞き分け対決最強だね」

「それは言い過ぎです……しかも、何の役にも立たない気がしますよ。少なくとも、私の学んでいることには」


 魔に侵された巽を探しているというのに、緊張感はゼロ。神経質な人がいれば、叱責されていたかもしれない。しかし、私にはむしろそれが良かった。変に張り詰めた空気だと、これから確実に起こるであろう出来事がますます恐ろしく見えてきてしまうだろうと思ったから。


「待って下さい。何か……」

 

(ん? 音の雰囲気が変わった。さっき、巽の居場所を突きとめられた時と同じ。でも――)


 巽がいるかもしれない場所を前にして私が立ち止まると、クロエが不思議そうな表情で隣に立つ。


「え? ここ? マジ?」


 彼女がそう思うのも、無理はない。何故なら――目の前にあるのは、何もない厳かな装飾の施された白い壁だったから。


「ドアらしきものはない……ですね。その他、何か仕掛けがあるのかもしれませんが……」


 壁に触れてみたが、動くことも空間の歪みが生じることもなく、ただ悠然とただの壁が構えるだけであった。


「待って! 何か来る、離れてっ!」


 彼女は、素早く私の腕を引っ張って後ろに下がる。その瞬間、今の今まで私達が立っていた場所に不気味な何かが黒いオーラをまといながら現れた。音に集中していたので、異変には全く気付けなかった。咄嗟の彼女の判断がなければ危なかったかもしれない。


「アう痛、見……い。ダぁレ」


 そんな意味不明な言葉と共に、不気味な何かは歩み寄る。その両手に鎖で縛られたことによって、握る形になっているであろう錆びたナイフを持ちながら。


「酷い……何この姿」

「とても人がやる所業とは思えませんね」


 不気味に感じている理由、それは彼女の見た目だ。目は棘だらけのツタで塞がれ、かつては綺麗に着こなしていたであろう黒いワンピースも至る所が破れている。そこから腕の――球体関節がよく見えた。


(人形……なの? この)

 

「うゥぅ、アあ゛ぁ! 見イいいいイいっ!」


 突然、人形が奇声を発する。すると――空間がぐにゃりと歪んで、景色ががらりと変わった。魔女の邸宅であったはずの場所が、私の家の中と全く同じものになってしまったのだから。

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