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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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手を取り合って

―クロエ アーリヤの邸宅 夕方―

 寂しい部屋に優しい光が灯る。それを見ているだけで、自然と力が満ちていくのを感じた。不思議な光だ。


「うあっ!?」


 光のお陰もあってか、私を縛るツタとアリアを縛る鎖が粉々に消え去った。


「すっごい、何これ……」


 先ほどまで縛られ痛みを感じていたとは思えないくらい、体は楽だった。歌声が心を癒し、光が身を癒してくれているようだった。


「巽はどこっ!?」


 ナイフを構えたまま、何が起こったのか理解出来ていない様子で美月が周囲を慌しく視線を動かす。


「落ち着きなよ、多分巽君は逃げただけだから……」


 この光に苦痛を感じ逃げてしまうとは、彼は本当に魔女のせいで穢れてしまった。本来、安らぎを与えてくれるはずの物。しかも、元々あのペンダントは巽君の所有物だ。


「あの……少し前から思ってたんですけど、巽君というのはタミのことでしょうか?」


 申し訳なさそうに、アリアが問いかけてきた。


「そうだけど? あ、あぁ~うっかり。まぁいいか、今更。タミの本名は巽だよ。色々複雑な事情があってね、ま今のこの状況よりはマシよ」

「そう、なんですね……」


 彼女は小首を傾げながらも、それ以上は追求してくることはなかった。そして、ハッとしたように再び口を開く。


「光と歌が弱まってきてます。もしかしたら、このペンダントに宿る者が助けてくれたのかもしれません。何かが起こる前に……急がないと」


 確かに、彼女の言う通り優しい歌声と光はそのペンダントに収まってきていた。この力の詳細は、よく分からない。が、今はそれは些細な問題だ。再び、ゆっくりと闇に場が支配されていく。

 と、同時に今までより大きなモノが――この部屋を、いや屋敷中を包み込んでいくのを感じた。


「何か来るわ! 逃げ――」


 それは、部屋の中央で混乱する美月に向かっていた。私は、咄嗟にそれを伝える為に叫んだのだが虚しくも呆気なく、彼女を不気味な黒い影が飲み込んだ。そして、そのまま影は這うように床を進むと、壁をすり抜けて消えてしまった。


「嘘でしょ……何、今の」


 瞬きする間もないくらい一瞬の出来事だった。得体の知れぬもの、こんな所だからそれくらい想定しておくのが筋だったのだと思う。けれど、嫌だったのだ。この闇の中でようやく希望の光が差し込んだのに、また危機に陥ることを考えたくなかったのだ。


(美月だけがいなくなってしまうなんて、まさか……まだ続きをやるつもりなの? 巽君。駄目、駄目だよ……そんなの……でも、巽君の気配なんて私には分からないし、分かる人がさらわれてしまった訳だし……どうすればいいのよ)


 受けとめたくない現実に打ちひしがれていると、アリアが優しく寄り添い、私の手を取った。


「私も怖いです。だけど、一緒ならどうにかなる気がしませんか? 頼りないかもしれませんが……どうでしょう?」


 引きつった残念な笑顔。何もしない方が可愛らしくていい。でも、それは彼女が私を元気付けようとしての行動であることは痛いほど伝わった。


「はぁ……そんな笑顔を向けられたら、やるしかないじゃない。いいよ、大人のお姉さんが一緒だし。何の為にここまで来たんだって話だし。いいようにやられまくるって不快だし」

「えへへ……良かったです。頑張りましょう。タミ、じゃなくて巽の為に! うん!」


 私に言うというよりは、自分自身に言い聞かせているようだった。彼女も、本当は不安でも押し潰されそうなのだと思う。けれど、大人として引っ張れるのは自分だけだと鼓舞しているようだ。


(はぁ、後で素敵な笑顔のやり方を教えてあげないとね。まぁ、これが終わったら勝手に……うん、終わらせないと。ネガティブにネガティブに考えてもキリがない。負の感情に飲み込まれていたら、魔女の思う壺だわ。呆れるほど前向きになってやる!)


 頼りなくて笑顔が下手くそなお姉さんと一緒に、私は部屋を飛び出した。ところが不思議なことに、何故だかとても安心出来た。絶え間なく襲ってくる恐怖に、打ち勝つことが出来たのは間違いなく頼りないアリアのお陰だった。

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