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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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可能性がある限り

―クロエ アーリヤの邸宅 夕方―

 一体、何がどうなっているのやら。世界が逆さまになっているせいで、何か前向きな思考になれない。ごちゃごちゃとしてきて、変な感じ。吐きそう。

 はっきりと分かっているのは、救うはずの巽君の人格が変わっていて、敵として私達に殺意を向けていることと、私とアリアは完全に傍観者になっていることだけだ。


(頭に血が上る~!)


 何とか口を縛っていたツタは噛み千切ったが、他の体を縛るツタはどうしようも出来なかった。魔力対策までばっちりで、腹が立った。


「もぉおおお! 何なのよ、このツタぁ!」

「うるさい子供だ。劇は静かに観賞しないと駄目だろう?」


 すると、どこからか現れた緑髪の女性が微笑を浮かべながら、逆さまの私に目線を合わせるようにしてしゃがみ込んだ。


「あんた……誰?」

「お前達と同じ、この劇の傍観者だ。姉弟の殺し合いという悲劇のな。嗚呼、なんと心苦しいものか。アーリヤ様のお望みの最高の舞台だ」

「あ~、アーリヤの……まぁ、そうか。こんな時にこんな場所で、こっちの味方が突然現れる訳ないもんね」


 ちょっとだけでも希望を抱いた私が間違っていた。けれど、力の主が分かったことで自然と頭が回ってきた。


(この力は……精霊のものよね。アーリヤの力は、そこまでに及んでいたというの?)


 自然を守護する精霊が闇に取り込まれたことで、環境に作用されやすい太平の龍の力に影響があったとしたら。アーリヤがそれを計算して、彼女を取り込んだのだとしたら。


(打算的だわ。あくまで想定だけれど、過去の話を聞く限りでは上手く行き過ぎていた。かつて、ボスが後手後手に回りアーリヤを完全に倒すことが出来なかったのは、魔女の計画があったから?)


「あんたは自分の意思で、魔女の手を取ったの?」

「愚問だな、当たり前だろう? 姫君の下僕となったのは、皆自らの意思だ。無論、あそこで剣を構えているあいつもな」


 そう言いながら、彼女はゆっくりと立ち上がった。


「巽君が……望んで? 嘘よ、あんた達のことだから無理矢理――」

「決め付けは良くないな。まぁ、姫君の力も当然ある。しかし、姫君の力の作用は心ある者の奥底に眠る闇を引き出すのみだ。姫君の力を身に宿したことによる忠誠心の影響もあるだろう。だが、最終的な決定は当人次第。望んだのだ、あの者が。永久的に尽くし続けることを。お前らが今更、足掻いた所で染みついた力は取り除けない。諦めることだ」


 彼女は魔女の影響もあることを認めた上で、巽君は自らの意思で魔女の為に剣を持ち敵意を向けていることをはっきりと言った。それから分かることは、巽君の意思が変わらない限り――魔女の力から解放されることは絶対にないということだ。


「私達にある希望は……説得だけ? あの堅物に? 植えつけられた忠誠心をお持ちで、陶酔してるっていうのに? ハハハ……うげげ、無理じゃん。そんなの卑怯だわ。私達はここで見てるだけがお似合いってこと……」


 絶望が心を侵食していく。私の声は、巽君には届かない。第三者の声など聞く気もない彼の耳には――。


『ララララララ~♪』


 唐突に、そんな私の心を優しく包み込むように優しい歌声と音色が響いた。それが聞こえてくるのは――隣にいるアリアからだ。視線を向けるが、歌っているのは彼女ではなかった。では、一体どこから? その答えは、彼女が身につけている物にあった。


「……諦めちゃ駄目です。可能性はあるの、聞いて貰えないなら聞いて貰えるまで訴えましょう。それが、私に……私達に出来る……ことっ!」


 それは、巽君がいつも肌身離さずつけていたペンダント。アリアの言葉に応じるようにして、歌声と音色は力強いものになっていく。そして、眩い光を放ち始めた。


「なんだ、この光はっ! 目が痛い……!」


 私達に安らぎと力を与えてくれたペンダントの音色、それは精霊の女性には不快なものであったらしい。先ほどまでの高慢さはどこへやら、逃げるように姿をくらました。

 そして、それは少し離れた場所で戦っていた巽君も同じだった。


「○■×○■×○◎゛!」


 断末魔に近い叫び声を上げて、彼は黒い空間に吸い込まれるように消えた。

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