余計なお世話
―アーリヤの邸宅 夕方―
僕が繰り出す魔法を用いた攻撃を、美月は全て二つのナイフで取り込む。ただのナイフではない、彼女専用の魔力を吸収し、自分の力を変換する特殊な物。厄介な品物を手に入れたものだ。僕が唯一、彼女に勝てるのは魔法や魔術であったのに。
(通じない。全て防がれ、吸収される。やはり、剣を使うしかないのか? でも、魔力を用いない戦い方は美月の方が圧倒的に得意……可能性がない訳ではない、が。アーリヤ様の力に賭けてみるか?)
物に頼るようになったからだろうか。彼女の第六感的な部分が鈍っているような気がする。先ほどだってそうだ。僕が魔法の塊を放った時、美月は咄嗟にその場にしゃがみ込んだ。その瞬発力は大したものだったが、避け方が悪かった。幸い、掠った程度で済んでいたが――一秒でも遅れていれば、頭に直撃だっただろう。目に余る劣化だ。
「いつの間に、そんな物を?」
「この国で買ったのよ。便利な物があるものね。そんなに悪いことじゃないでしょ? 結構、使い勝手がいいのよ」
「買ったのは……私、だけどね……」
ドライアドさんのツタに吊るされたまま、ぼやくようにクロエが言った。
「あぁ、そう買って貰ったのよ。英語は嫌いじゃないけど、ちょっと難しいのよね。今じゃ、すっかり巽の方が得意だわ」
「……使わざるを得ない環境だ。そうか、なら誤解が生じないように久しぶりに日本語を使って話でもしようではないか。遺言も、私が代わりに覚えておこう。込み入った話、姉弟だけで話したいこともある」
「えぇ、そうね。とても昔じゃ考えられない提案だわ」
美月は魔法を避けながら、僕への距離を急激に詰めて魔力をしっかりと染み込ませたナイフを振り下ろした。僕は、それを防御魔法で防ぎ弾き返す。そして、懐かしい言語を声に出した。
「美月が魔力をまとっているなんて新鮮だ。だが、少々そのせいで腕が落ちたのではないか? 昔であれば、私のシールドを素手で破壊するくらいの威力もあっただろう」
「余計なお世話。というか、ちょっと待って? 何その喋り方、英語の時からそんな感じで話してたの? まるで、父さんみたいじゃない。私とか……真似事のつもり?」
「お前には関係ないっ!」
僕が、ここで普通に戦っていられるのは演じているからだ。理想を演じている間は、無性に力を得られている気がした。
「過去との決別? 父さんの真似事をしていて、よくそんなことが言えたものね」
「父上のことは、一個人として心の奥底から尊敬している。国があろうとなかろうと、王であろうとなかろうと……この想いは消えない」
「意味が分からないわね。それっぽいこと言ってるけれど、滅茶苦茶だわ」
「はぁ……何言っても無駄か。まぁいい、他者の理解など私は求めていないからなぁ!?」
僕は、アーリヤ様から頂いた力を解放する。下手に触れれば力を奪う、あのナイフに取り込めばどうなるのか見ものだ。
そんな企みを抱きながら、何も知らない美月に向かって鎖を伸ばした時であった。背後から、あの小賢しい女の振り絞るような叫び声が響いた。
「――その鎖には触れてはいけませんっ!」




