知らないことがあるのは嫌
―学校 朝―
一限目が終わり、僕はやっとあの教授の圧から解放された。あの後もリアムは何度か質問していたが、あまりにその内容は難し過ぎてついていけなかった。
それは、ずっと魔術が生まれたきっかけのことが頭から離れなかったからというのもある。そのきっかけが偶然にも僕の罪の傷を抉った。悪いのは他の誰でもない。悪いのは、罪を犯した僕自身。引きずる暇があるのなら、集中して勉強に取り組めばいいのにと僕は僕に思う。
(授業で、まさかこんな思いをするなんて……駄目だな、僕は)
気持ちを切り替える為、僕は二限目に備えて教室移動をしようと立ち上がった。すると、
「タミ、次は何の授業なんだい?」
リアムは僕を見上げ、微笑を浮かべながらそう言った。
「呪術基礎っていう教科なんだけど……」
「呪術? それって魔術と同じ類の奴かな!? 何か、面白そうだね! いいなー、でも次は俺もちゃんと授業があるからなぁ~」
「あんまり有名じゃない教科みたいだね……前の授業も僕を含めて十人程度しかいなかったから」
それに比べて、古代魔術学は常に教室は人でいっぱいだ。それなりに広い場所で、席も沢山あるというのに。今回は、ざっと見ただけで百人近くはいたように思う。
一応、呪術も魔術の仲間だ。ただし、呪術は僕の国で生まれたものだ。だから、あまり海外では浸透していないのだろう。それなのに、きっちり教科として存在していて驚いた。
魔術王国だけあって、その類は全て取り扱っているのかもしれない。
「危険な香りがする魔術……あぁ、是非受けてみたかったよ」
この時、リアムが浮かべた笑顔は狂気を孕んでいるように見えた。
「……物好きだね、君は」
「知らないことがあるのは嫌なんだ。あぁ、そういえば同じことを彼も言っていたなぁ」
(僕も、その言葉を聞いたことがあるような……)
聞き覚えはある。似たことを聞いたことがあるような気がする。気がするだけかもしれないが。
「彼?」
「……ごめん、ちょっと一人で勝手に懐かしい気持ちになっちゃった。内緒さ、ほら、秘密がある方が魅力的に見えたりするんだろう?」
リアムは人差し指を口に当てて、微笑んだ。
「それは僕みたいな奴がすることさ……リアムがやるようなことじゃない。まぁ、別にいいけど。じゃあ、僕はそろそろ行くよ。リアムは次どこなの?」
「魔力論さ! 右隣の教室で! すっごく楽しい授業なんだ! 教授がお茶目な人でね……気が付いたら授業が終わってる。あぁ……授業時間がもっと欲しいよ」
「……ハ、ハハ」
多分、僕の笑顔は引きつっていただろうと思う。そのことに、彼が気付いていたか否かは分からない。平気で、本心でこんなことを言ってのける彼を心から尊敬する。
やっぱり、僕みたいな奴とは違うのだ。考え方も、捉え方も。
「じゃ、じゃあね、リアム」
「バイバイ~!」
リアムは、大きく手を振った。僕は小さく手を振り返して、足早に教室を後にした。




