忌まわしき技術の痕跡
―アシュレイ コットニー地区 夕方―
あまりにも呆気なく、造作もなく、黒い集団が木っ端微塵にされていく。彼に容赦はない。迷いもない。だから、こんなにも一瞬でカラス達を殺せる。抵抗しなければ、人としての自分が殺されてしまうから。彼とて不死身ではない。人の体で生きている限りは。
「流石だ……惚れ惚れする」
思わず、そんな声が漏れる。男にそんな気持ちを抱いてしまうなんて、自分でも不思議だ。けれど、それくらい彼の力は圧倒的だった。本能的な部分がくすぐられているのだろう。強さは、皆を惹きつける。
(一瞬で殺されるんだ、彼らもそんなに苦しんでいない……よね)
同胞が殺されてしまうのを見るのは、心が痛い。せめて、彼らには楽に逝って欲しかった。苦しむ間もなく、地獄に堕ちていることを願う。
(ごめんね。今のこの世界では、私では皆を救えないんだ。この世界を変えるのは……傍観者達だ。無関係を装う不特定多数の者達の心が必要なんだ)
歴史の記憶にも残らない犠牲が、いつだって世界を変える糧になった。その犠牲が、不幸にもカラス達になってしまった。
(後で……私も逝くから)
塵になりゆく同胞達を見ていると襲う虚無感。それに呼応するかのように、額に痛みが走る。
「う、うう……」
騒いでいる。力が、暴れたいと疼いている。
(一対一、模造品と本物の茶番を始めるには機は熟したか)
ちょうど、彼も終わったらしい。数える気にもならなかった無数のカラス達も全て、彼の前に跡形もなく敗れ去った。
「ハハハハハハハハ! 見事、見事だ!」
私は痛む額を押さえ、地上へと降り立つ。平常を装う為、豪快に笑って見せた。
「あ? これで全部か? マジかよ、しょぼいな。俺も舐められたもんだ。有象無象をどれだけ集めても、あれじゃあなぁ。やったことは卑怯だが、困るほどじゃなかったぜ。で、次の相手はお前でいいんだよな? まだ、何かあるか?」
駄目だ。視界が二重いや、三重にも見える。額も燃えるように熱くて痛い。彼の発言が、いまいち私の中に入ってこない。煽っていることは分かるが、それに応じる元気はなかった。
「んん? お前、額から血が……! いつの間に、そんな大怪我を? かすり傷って感じでもねぇが……俺の成果?」
これは怪我ではない。物心ついた頃には、既に私の中に埋め込まれた忌まわしき技術の痕跡。破壊行動に反応し、それを力と変える。彼にも多少、覚えはあるだろう。私は、それを彼に見せつけるように額から手をどけた。
「こんな時に私の心配をしてくれるとは、男にしては気が利くじゃないか。あぁ……そうさ、これが私の本当の――」
あまりに大き過ぎる力は、この小さな体には収まり切らなかった。ずっと無理矢理押さえ込んできた。でも、もういい。ここで、私の人生は終わるのだから。私自身の終わりと共に、世界の新たなる幕開けが望めるのなら死なんて恐ろしくも何ともない。
「第三の目!? それは、破壊の……!? あいつまでも研究所は利用したというのか!?」
遠くへと引きずられるように持っていかれる意識。惨めなものだ、こんな醜態が私の最期だなんて。今までの罪を考えれば当然なのかもしれないが、少し悲しく思う。
(せめ、て……レディの胸のナかで逝キタカッタ――)
「物のようにカラス達を破壊するから……抑えテきた力がどうニモならなくナッちゃったじゃナいかぁああああアあアアアアアアあアッ゛!」




