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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十三章 決戦
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私の望む未来に

―アシュレイ コットニー地区 夕方―

 日が落ちてきた。この戦いは、どれほど続くだろうか。少し前から向こうの方から響く爆発のような音と共に、激しく地区全体が揺れる。地面に突っ立って、皆を待っていると体勢があまりに安定しないので、空を飛んで待っていた。


(これで……きっと、私の望みは果たされる。勝敗なんてどうでもいい。大事なのは、私達が戦ったという事実だけ。しかし、一つ重要なのはここだけで完結しないことだ。アレンが、想像以上に暴れているから大丈夫だろうと思うけど……)


 また、コットニー地区の連中が何か良からぬことをしている、自分達には関係ない、そう思われてしまっては駄目なのだ。ここで起こっていることによって外の者が自分の身に危機を感じ、介入しようするくらいに暴れなければならない。


(この争いで何人が亡くなるのだろう? 一体、どれほどの恨みが私達に向けられるだろう。ゾクゾクするよ)


 どれほど待ち続けたか、ようやく私の目の前に待ち人達が現れた。彼女らは、上空にいる私など目もくれずに一目散にアーリヤ様の屋敷へと向かっていく。


(随分と人数が減ったな。男が一人に、見覚えのあるレディが二人……私の戦うべき相手は必然的に決まっているじゃないか)


 アーリヤ様が許可していない男を、この屋敷の中に迎え入れる訳にはいかない。私は彼女らの前に、ふわりと降り立ち行く手を阻んだ。


「チッ、やっぱり気付かねぇフリは駄目か……」

「無理があると思うよ、教授さん」


 男が、心底残念そうに舌打ちをする。舌打ちをしたいのは、私の方だというのに。


「面倒なのが出てきたわ」

「久しぶり、美月姫」

「ウザい。私、あんたのこと嫌いだから」


 背筋が凍るような冷たい視線、癖になってしまいそうだ。


「……どうする? ぶっちゃけ、こいつなら私一人でも倒せると思う。組織でも、私より一個上だっただけだし」


 そう言うと、クロエは一歩前に出る。どうやら、私の相手は自分であると思ったらしい。けれど、違う。絶対に違う。ありえない。


「クロエ、気持ちは嬉しいけど……私は君とは戦えないよ。レディに手を出すなんて、死ぬのと同じくらい辛いんだ。だから、戦う相手はこちらから指定させて貰うよ。ジェシー教授」


 今まではやむを得ず、レディとも戦ったこともある。力の証明、生涯を捧げた計画の遂行、アーリヤ様の命令の為に。


「クロエと美月姫は、中に入るといい。探し物も敵も見つかるさ。君達にまた、逢えたらなぁ」


 魔術を使い、屋敷のドアを開けた。


「何を……」

「ぎゃあっ!?」


 そして、二人を風の魔法で強制的に屋敷の中へと押し込んだ。無論、怪我はしない程度に。

 多分、私が言うだけでは彼女達は納得してくれなかったと思う。流石に、強大な魔力を感じる三人を相手にしていては私の身も持たない。それに、レディ相手では残虐にすらなれない。彼女達を傷付けるなんて、私のポリシーに反するからだ。


「紳士的じゃねぇなぁ。まぁ、いいけど。俺としては、先に進めるならそれで」

「信じてるんだね、二人のこと」

「当たり前だろ。こんなんでも仲間に信じて貰えたから、俺はここまで来れたんだ」

「……犠牲で力を得る太平の龍とは思えぬ発言だ。信じてる、か……フフフフフ!」


 彼を一人にしたとはいえ、神の使者である龍をどうにか出来るほどの力は持ち合わせていない。普通にやっていたら、すぐに突破されてしまうだろう。私は、あくまで彼の力を最大限に引き出したいだけ。ド派手に暴れて欲しいだけ。ここは、卑怯な手でも使おう。どうせ、男だし。


(滑稽だ。実に滑稽だ。書物で読んだ姿とは、かなり違うじゃないか。実に人間らしい。でも――)


「太平の龍、太平の龍……口を開けばそればっかりかよ。過去にこだわる奴は、女にも嫌われるぜ? 大事なのは、今だろっ!?」

「そうだね。でも、残念ながら過去が偉大であればあるほど、そこに注目されてしまう。文句があるなら、実力でどうにかすれば……いいんじゃないのかなぁっ!?」


 私は空高く飛び上がり、あることを目的として指笛を鳴らした。彼は最初、それを呆然として見上げていたが、すぐに意味を理解して声を荒げた。


「な……!? 糞野郎だな。心の奥底から軽蔑するぜ! あぁ!?」


 その目的は――周りに潜むカラス達に戦いの幕開けだと知らせる為。ただ、心苦しいのはこの中にもレディ達がいることだ。


「戦いは卑怯でなければ……実力が劣ると知っている、これが有効なんだよ」


(ここまでのことをやるんだ。絶対に……私の希望を……)


 少しでも傷付いて貰わなければ。カラス達に襲われる彼を見下ろしながら、まだ見えぬ遠く輝く希望の未来に思いをはせた。

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