私はここにいる
―ドール コットニー地区 昼―
「――あぁぁああっ!」
漆黒に響き渡る絶叫。甚振る度に、彼女はゆっくりと壊れていく。
「隠さないで教えて下さる? そうやって、私を惑わせるつもりなのでしょう!?」
「やめて……本当に、これ以上のことは何も知らないんですの。私は、貴方……リバティと戦いたくありませんわ」
「リバティ……?」
その瞬間、一つの記憶がその名前を聞いて蘇る。
『わ~! 可愛いお人形さん!』
『お父様達には内緒にするんですのよ?』
『はい! ありがとうございます、お姉様!』
『折角だから、この子にお名前をつけましょう。何かいい名前はありまして?』
『う~ん。あ、じゃあリバティ! 前、本で読みましたの。自由を掴み取る者の名前であると。素敵な名前でしょう?』
『ええ、とても。この子もきっと喜んでいますわ』
「私の……名前?」
「そうですわ。あの子の果たしたかった思いが込められた……素敵な名前でしょう? だから、もうこんなことはやめて……」
気が付けば、彼女の声は弱々しくなっていった。よく見れば、彼女の体は生気をすっかり失っていた。今、こうやって話せているのが不思議なくらいに。
「なら、潔く私の全てを教えて下さらない?」
「リバティ、私の知っていることは本当にこれだけですの。役に立てなくて……本当に……」
しかし、彼女はとても穏やかな表情を浮かべていた。自分を痛めつけている私に対して、一切の憎しみも抱いてない様子だ。
「あ、あぁ……神よ。弟の下へ行く私を御赦し下さいませ。そして、皆に……私は……」
存在しない虚像の存在に彼女は祈りを消え入るような声で捧げると、ぐったりとして動かなくなった。彼女の下にある血の海が、僅かに振動で揺れるだけでそれ以外には無だった。
「本当に何も……弟さん以外のことは、何も知らなかったんですの? そんな……そんな、じゃあ、私は……」
違う。間違っていない。結局は殺さなければならなかった。どう足掻いても、この結末は変えられなかった。アーリヤ様の命令は、果たした。だから、満たされなければならない――はずなのに。
(この感情は何? 何故、こんなにも悲しいんですの?)
――私は、ずっとここにおりますのに。酷いですわ、リバテイ。どうして、お姉様を殺したんですの?――
憎悪のこもった少年の声が脳内で響く。
――ハハハハハハ! アーリヤ様の為にやったこと、俺は何も間違ってなどいない――
続いて、高笑う満足げな男性の声が響く。
――私ハ人形、何モ分カラナイ――
最後に、脳裏に浮かぶ奇妙な文字。
そして、脳内で響く複数の声は同じ言葉を何度も何度も繰り返す。文字は、私の脳内を埋め尽くす。まるで、私を責め立てるように。
やがて、私は――何モ分カラナクナッタ。
「オ姉様……アーリヤ様……? 俺ガ人形……」




