再会
―ドール コットニー地区 昼―
茶色いクッキーを窓に差し込む日の光にかざしながら、私は待っていた。でも、太陽は嫌いだ。まるで、自分が正義だというように堂々と辺りを照らすから。
(私の中にある記憶の断片、それが私の物であるのかは分からないけれど……確かめれば分かることですわ。その為には、あの女性が必要)
私は、アーリヤ様と共に封印されていたはずだった。しかし、そうであると仮定した場合、私が記憶を所持していることに矛盾が生じる。
(毎日、私に話しかけてくれていた見知らぬ少年の記憶。私に「大丈夫」と言いながら、優しく頭を撫でてくれた幼き頃の選抜者の女性の記憶。人なのか、ゴミなのか分からない何かを見つめる記憶……)
その全てが、それぞれ別人が見ている視点のように感じた。真意は、分からない。私は名もない人形。ずっと、アーリヤ様と共に過ごしてきた。
今まで、大して気にしたことなどなかった。けれど、キングと出会って何かが変わった。私をただの人形だと切り捨てなかったのは、彼だけだった。私の為に作られたこの茶色いクッキーは、他のどんな物によりも輝いて見えた。
(この美味しそうな茶色いクッキーを食べていたのは、選抜者の中にいるあの女性でしたわ。私は、それを眺めていた。けれど、封印が解かれてから一度も私は彼女と過ごしたことなどないはず。であれば、私の中にある記憶は何なのでしょう……)
「きゃあっ!?」
突然、遠くから爆発音にも近い音が聞こえたかと思えば、建物が激しく揺れた。ミシミシと音を立てて、天井から埃が落ちる。
「アレンですわね……まさか、ここを全壊させるつもりじゃありませんわよね?」
誰の仕業であるかはすぐに分かった。今、この状況でここまでのことを出来る人物など彼ぐらいしかいない。最近は、落ち着いていると思っていたが……やはり、戦いになると自分を抑えられなくなるようだ。
(マリー……は、無事のようですわね)
彼女が、彼の狂乱に巻き込まれているのでは――と一瞬焦った。しかし、それは杞憂に終わった。窓から見える景色に、痛そうにお尻を押さえて座り込むマリーが見えたからだ。
「ウフフフフフ……! この時を待っていましたわ!」
これで、ようやく記憶の矛盾に決着がつけられる。真実を彼女は一つは知っているはず。私の姿を見れば、もしかしたら何か分かるかもしれない。
「貴女の命を引き換えに、私の記憶を頂戴しますわ!」
そして、私は力を解放する。すると、瞬く間に広がった闇が辺りを全て飲み込んで染めていく。この空間では、私に全ての主導権がある。私が手招きをすると、すーっと簡単に彼女の体は引き寄せられる。
「ウフフフ……御機嫌よう」
ワンピースの裾を掴み、私は礼儀としてお辞儀を行った。
「え、あ、どうして……!? どうして、ここに!?」
予想外のことばかりが続き、唖然としていた彼女も私の姿を見てようやく言葉を発した。
「嗚呼、やはり私のことをご存知ですのね。沢山、お聞かせ願いますね……?」




