もう誰にも分からない
―学校 朝―
「古代魔術というのは~本当に素晴らしい! 祖先が最初に生み出した魔術! 今、我々が使う魔術の中にも当時の魔術のベースがしっかりと生かされている! つまり! 古代魔術がなければ、近代魔術も現代魔術も存在しえなかった! だからこそ、学生諸君……この古代魔術学を履修したことは決して過ちなどではない! 古代魔術学において――」
教授は高らかに、まるで演説をするかのように授業を進めていた。毎度毎度この調子で、疲れないのかと思ってしまう。
しかし、そんな心配など露知らず、教授は常に興奮気味に、時に机を力いっぱい叩き、感情のままに僕らに古代魔術とは何かを説明する。こんな圧を真正面から受けるのが嫌だから、僕はここに座ることを避けていたのに。
「質問!」
すると、隣で身を前のめりにして話を聞いていたリアムが勢いよく右手を挙げた。
「何だ?」
教授は演説を中断し、リアムの方に顔を向ける。質問を聞いて貰えるということに喜びを覚えたのか、ただ単純に気分が高揚しているのか、リアムは机を叩いて素早く立ち上がる。その音は教授が時折叩く音よりも強く、教室に響き渡った。
それに驚いた僕は、手に持っていたペンを思わず手放してしまった。
「古代魔術が生まれたきっかけは何ですか!?」
リアムは、目を宝石のように輝かせる。
「いい質問だ!」
教授の普段から恐ろしい顔に、幸せそうな笑みが浮かぶ。初めて見た光景だった。
「古代魔術……これが生まれたのはローマ帝国、そして戦争の時だったと言われている。そこでの詳しい話をするのもいいが……古代魔術学だ、さらっとここは流させて貰う。当時の人々は魔法のみで戦っていた。しかし、魔法は全てにおいて必要エネルギー量が高く、疲弊しやすい。戦う者達への体の負担を減らし、かつ圧倒的に優位に立つ方法はないのか……と当時の人々は考えたのだろう。優れた魔法の使い手達と研究者が協力し、その願いを叶える禁断の魔術はこの世に誕生した。そして、これは近代魔術や現代魔術にも当てはまる。新たな物の誕生のほとんどは、争いに勝つ為の研究からだ、以上。簡潔にまとめてみたのだが……どうだ理解したか?」
「はい! とても! ありがとうございました!」
リアムは、嬉しそうに席に着いた。
(戦争がきっかけ……か)
ふと、脳裏に忌まわしき記憶が蘇る。僕の犯した許されざる罪、浅はかな考えで国を皆を巻き込み、間接的にも直接的にも多くの人を殺した。戦争を起こした張本人はこんな風に、そのことへの罰も受けず平然と生きているのに。
そして、そこから僕は学んだ。戦争は得る物以上に失う物が大きいのだと。だとすれば、魔術を生み出した昔の人達は一体何を失ったのだろう。それは歴史に埋もれてしまって、もう誰にも分からないのかもしれない。




