一対八
―アレン コットニー地区 昼―
一つの決断を、俺は笑顔で見届けることとした。
「どうする?」
「どうするって……この戦いから逃げることなど、一族の恥ですわ!」
(一族の恥……か)
その言葉を聞いて、折角作った笑みが崩れてしまいそうになった。マリーが変顔で腹踊りする姿を想像して、それを何とか我慢した。こんな子供みたいなことで笑えるなんて、俺も幼稚だ。
「ハッハッハ! 逃げることもまた一つの戦術なんだけどねぇ。本当の強者は引き際を知ってる……って、話の主旨がずれたな。あのね? 俺との戦いから離脱しろって言ってるだけで、俺達との戦いから離脱しろって言ってる訳じゃないんだよ? まぁ、部屋の電気消し忘れたとか、鍵閉め忘れたとかあるんだったら帰ってもいいけど。俺としては、ここから去ってくれるなら後はどうでもいいからさ」
ここに留まることを選ぶのなら、本当に彼の首をこれではねるまでだ。魔剣としては使えなくても、普通の剣としては問題なく使えるのだから。
「そんなくだらないことで、ここから出る訳がありませんわ! 第一、外出する時は一つずつ確認するタイプですのよ!?」
「あ~うん。で、どうする?」
「この人は胡散臭い。鵜呑みにすることはないんだぞ。平気で人を騙して、それを快楽にしてそうな輩じゃないか。見た目は嘘をつかないって言うだろ」
様子を伺っていたマイケルが、俺を激しくdisりながら葛藤するマリーに優しく言った。
(見た目だけで判断されるなんて、世知辛い世の中だよ本当……)
「……そうですわね。でも、ここに残る限りマイケルに死の可能性があるのなら……ここにいる皆を信じて私は先へ進みますわ。先生に私達を信じろと言ったのです。張本人が、仲間達を信じなくてどうするのかという話ですわ」
「おぉ、賢明な判断だね。じゃ、先に行くといい。無論、その間は君達に手出しはしない。胡散臭くないし、人を騙すことに快楽を感じたこともないから安心して」
「……気にしてるアル」
「結構繊細なのかもしれないネ」
「そこ~聞こえてるよ~」
自分の悪口を目の前で言われて、心穏やかにいられる訳がない。というか、この見た目に関しては――。
「ちゃんと後から来るんですのよ! ちゃんと、この男を抹殺するんですのよ!」
「抹殺!? おいおい、過激だなぁ……存在すら嫌かよ」
「嗚呼! 分かってるぜ! 死んだら承知しねぇからな!」
顔面の自己主張は激しめの彼は満面の笑みを浮かべて、親指を立てた。
「フフフ……交渉成立だね。そういえば、道分かる?」
「進み続ければいいだけですわ!」
「そうだね、そんなに複雑な道のりじゃないからね。じゃあ、いってらっしゃい」
俺は両手を上げて、魔剣を彼の傍に置き少し距離を取った。それを確認した後、彼女はコットニー地区の奥へと走っていった。




