凡庸な魔剣
―アレン コットニー地区 昼―
「――っとぉ。中々やるねぇ、見事な連携プレイだ。思ってたより、凄く楽しいよ」
選抜者との戦況もかなり盛り上がってきた。戦いながら観察を続ける中で、各々の役割が見えてきた。
ジョンとメアリーが防御、シャオが回復、メイが強化、ベッキー、マリー、ケビンの三人が魔術を主とした攻撃を行い、マイケルが魔剣を使った攻撃を担当しているようだ。
「全員が自分の役割をほぼ全うしている。そう、ほぼね……」
何となくバランスが取れているが、これだけ戦い続けても、未だに俺の動きについていけていない奴が一人いた。背中を向けているそいつに向けて、手を切った時であった。
「させません!」
すんでの所で邪魔が入った。
「おっとっと」
攻撃を食らうタイミングでシールドを反射させ、見事にケビンを守った。お陰で、俺が俺自身の攻撃で瀕死に近いダメージを受けてしまう所だった。身を捩じらせて、何とか掠り傷程度で済んだ。
「あ、ありがとう。メアリー」
「無事で良かった」
「ケビン、動きが鈍いアル」
「私が回復してあげるネ」
攻撃が当たった頬を触ると、僅かに血が出ていた。俺なりに美容と健康には気を遣ってきたというのに。
(まぁ、これだけの人数を相手にしてるんだ。無傷でいられる訳がないか……休んでいる暇もないよ)
その時である、背後から何者かが迫っているのを感じた。
「甘い。甘いよ。気配くらい消してくれ。殺してくれって言っているようなもんじゃないかっ!?」
振り返り際に、俺は不意打ちを狙おうとしたマイケルに先ほどしてやられたようにカウンターを決めてやった。
「ぐはっ!?」
彼はもろにそれを食らって、地面に勢い良く叩きつけられる。その反動で、手に握っていた物が落ちた。俺は、それを拾って眺める。
「「マイケル!?」」
シャオとメイが、彼に近付こうとした。
「おっと。駄目だよ。下手に近付いたら、普通に彼を斬り捨てちゃうからね」
地面に倒れ込む彼に、鋭い刃を向けた。
「この魔剣かっこいいじゃないか。俺を斬ろうとする度に、紅く煌いて惹き込まれそうになるよ。でも、君にはまだこのおもちゃ早いんじゃない?」
(しかも、見覚えがあるっていうね)
この魔剣が輝いているのを見たのは、もう数百年も前。同じ貴族の男が、使用者として選ばれた時に見た。美しく紅く輝くその様子に、強い憧れを抱いたものだ。魔剣を使えるのは、選ばれし者か製作者のみ。どうしても使いたくば、作るしかない。
俺は選ばれし者ではない。それを証明するかのように、刃の輝きはゼロだった。
(今なら心底くだらないと思える。小さな世界しか知らぬくせに、選ばれたことを堂々と掲げる剣など羞恥の極み)
「先祖代々受け継いできた物? それとも、お金で自分の物にしたの? 地を求め輝き、血を吸収することで魔力が増すという品物だよね。最初の所有者は、貴族のくせに自ら処刑人になることを望んだクレイジーな男だったね」
「くっ……お陰で周りからはずっと白い目で見られてきましたよ。没落した貴族の成れの果てとでも言いましょうかね。使えても何もいいことがありませんでした。人殺しの血を引いているという証拠ですからね。もう少し、まともな魔剣が欲しかったものです」
「なるほど、前者か。でも、一つ見当違いをしているね」
「何? 何を根拠にそんなことを? お前は魔剣について何かしっているのですか?」
「そりゃ、ずっとこの世界をこの国を見てきたからさ。魔剣の仕組みもよく知ってる。無意味な物に惹かれ、恐れる者達の凡庸さも。それと――」
俺は、マイケルに刃を向けた。
「な……!?」
「まぁ、待て。ちょっとした取引といこうじゃないか」
彼の出自自体に興味はそんなにない。今の俺の興味は、選抜者達の絆にある。
「マイケルに何をするつもり?」
氷のように冷たい目で、ベッキーが俺を睨む。
「な~に。今から殺すので見ておいて下さいって言いたい訳じゃない。ただ、彼の命は……マリー、君にかかってる」
「……は?」
「ちょっと前から思ってたんだけども、この戦いちょっとフェアじゃなくない? 一対八なんてさぁ。君たちの本来の力を引き出すには、全員がいると思ったから我慢してたけど、これだけの相手してたら疲れるでしょ。だから、マリー……君にはこの戦いから離脱して貰う」
彼女に、この戦いを離脱して欲しい理由はただ一つ。一対七にしたいというのは建前だ。
「そんなこと……出来るはずがありませんわ!」
「いいの? 君がこの戦いから離脱するなら、この魔剣も返すし彼も自由にしよう。でも、それを拒むのなら……ここで、彼の息の根をとめよう」




