最高のおもてなし
―アレン コットニー地区 昼―
コットニー地区の出入り口に辿り着いた俺は、とりあえず建物の陰に身を潜めた。ここで、もうすぐ現れるであろう彼らを待つとしよう。
(さて、今回はどうなるかな? 前回は、実質N.N.一人に負けたようなものだったからなぁ。勇者なんて呼ばれちゃってさぁ)
この国に伝わるおとぎ話。世界を混乱至らしめた悪しき精霊を勇者達が倒し、平穏を取り戻したというお話。それが、真実であったことを知る者はほとんどいない。
そのおとぎ話が幻想ではなかったことを知った時、人々はどうなるのだろう。それを確かめる為にも、必ず勝利を収めなくては。
(奇跡的に俺一人だけ、封印を逃れたが……あまりに永かったな。その分のお返しは、しっかりさせて貰わないとね。おや?)
すると、大勢の足音が遠くから徐々に聞こえてきた。どうやら、待ち人達が登場したらしい。それにしても、大胆なものだ。潜むつもりすら感じさせないとは。
「昼なのに、恐ろしく不気味ですね。ひっそりとし過ぎているというか、あまりに人気がなさ過ぎるというか」
「えぇ、アリア。ここは朝でも昼でもこんな場所よ。さ、行きましょう。あの女のいる場所は分かるの。そこまで、案内するわ」
「ほえ~道分かるの? じゃあ、クロエに任せようかな」
「先生、ふざけている場合じゃありませんわよ」
呑気なものだ。ここは敵の根城なのに、楽しそうに穏やかに会話までして。まるで、緊張感ってものがない。今、どちらが不利な状況なのが分かっていないのか。
(やれやれ……まずは、歓迎してあげないとな)
俺は建物の陰から、通りの中央へと躍り出た。
「――いらっしゃいませ、お客様」
礼儀として、一応右足を後ろに引いてお辞儀をする。
「何名様でございますか?」
顔を上げると、そこにはジェシーと黒髪の女性、父親殺しの容疑者、組織に所属している赤髪の少女と白い服を身にまとった選抜者が八名立っていた。
「お前は……アレン!? アレンなのか、なんでお前がここにっ!?」
ジェシーが酷く衝撃を受けた様子で、俺を見ていた。
「なんだ……マジで気付いてなかったの? ショックだなぁ。色々鈍り過ぎでしょ。今なら、触れただけで殺せそうだよ」
「クソッ! 俺としたことがっ!」
「すっかり馴染んじゃって……龍の名が廃るよ?」
「……うるせぇ、ごちゃごちゃ抜かしてると殺すぞ?」
「別に怖くもなんともない。今の君に威厳もクソもないんだからさ!」
この地区ならではの挨拶代わりとして、俺は手で、空を横に切った。
「「危ないっ!」」
二人の選抜者が前に出て、俺の行動による危機を察してシールドを張る。そのシールドが張られて数秒後、周囲の建物が粉々に砕け散って、その破片がシールドに向かって降りかかった。
(う~ん。惜しい。流石にこの程度じゃ、駄目か)
「あはは、やるじゃないか。大したことないって思ってたけど、その咄嗟に出来る力は確かなものだね」
「カフェの店員である貴方が、どうしてこんな所で……!」
「え~と、マイケル君だっけ? 色々探る為だよ。ただ、それだけ。こっちの姿が、俺の真実だから」
THE・優等生という雰囲気の彼。俺に対して、はっきりとした怒りが向けられる。
「騙していたのか、俺を!」
ジェシーが叫ぶ。その目に宿るは、確かな怒り。シールド越しにも伝わってくる。何もしてないのに、ダメージが与えられている気分だ。精神的に。
「ほらほら、よく悪者が言うでしょ? 騙される方が悪いってさぁ!?」
シールドを破壊する為、俺は何度も手で空を切って傷を付けていく。この魔術は、便利だ。視界に入る物、全てに危害を加えることが出来るから。
(中々頑丈だな。でも、少しずつ壊れてきている。これは時間の問題だ)
「っ! このままじゃ……ジョン!」
メアリーが歯を食いしばって、ジョンを見つめる。すると、彼は一度頷いてジェシーに向かって叫んだ。
「先生、これだけ大きなシールドを維持し続けるのは大変です! だから、私達がここに残ります。だから、先生とクロエさんと美月さんとアリアさんは先に行って下さいっ!」
「な……何を言ってるんだっ!? そんなこと、お前達を置いていくなんて出来ねぇ! ここでお前達に何かあっても、駆けつけることは出来ねぇかもしれねぇんだぞ!?」
「構いませんわ! こっちは八人もいるんです。十分過ぎるくらいですわ。私達を少しくらい信じてくれませんこと? すぐに決着をつけて、後を追いますわ!」
徐々に崩れてきているシールドに、他の選抜者達が力を注ぎ始める。それでも、限界は近付いていた。
(ほう……面白い。こうなることは、計算通りだ。むしろ、都合がいい。分散させるだけ、分散させてやろう)
「……分かった。行こう。少しでも先に進むことの方が重要だと思う」
「クッ……絶対だぞ! 絶対後から来いよ!」
そして、シールドが砕け散る瞬間、ジェシー達は一目散に俺の横を駆け抜けた。この場に残った選抜者達は、彼らに危害が与えられないように俺に向かって魔術を使う。
この一斉攻撃、当たれば一溜まりもない。流石に避けなければ、死んでしまう。俺は飛びながら、四方八方から攻撃を加える選抜者達の相手を続けた。
「おやおや……仕方ないなぁ」
「お前の相手は、私達アル!」
「ぼっこぼこにしてやるネ!」
威勢だけは立派なものだ。一体、どこまでこの元気が続くか――楽しみだ。




