複雑な気持ち
―コットニー地区 昼―
――感じる。僕らに敵意を向ける集団が空を渡り、接近しているのを。
(不意打ちのつもりだったけど……こっちに、戦力を分散させる余裕があるくらいの準備はしていたということか。まぁ、いい。徹底的にここで潰せば……)
「どうしたの? 瞑想中?」
「……集中していただけだ。そろそろ来るぞ」
目を開き、空を見上げると見事なまでの晴天が広がっていた。今から、この空が赤く紅く染まっていく。憎しみの炎と血によって。青から赤へ。それが晴れる頃には、運命は決まっている。
叶えられるのは、一体どちらの願いになるのか――。
「は~そうかぁ。やっぱり来るのかぁ。それにしても、よく分かるねぇ。素晴らしいほど研ぎ澄まされた感覚だ」
「好きでそうなった訳ではない。ただ、分かってしまうから言っただけ。それが、アーリヤ様の為になるのなら」
「ここまで想って貰えるなんて、アーリヤ様も幸せなことだ。さてさて、俺はそろそろ行くかな。入り口でお客様をおもてなししないと」
彼は不敵に微笑むと、首元で結った髪をほどいた。
「最後に一つ聞きたい。私は、本当に……」
「そんなことで嘘ついてどうするの? 本当だよ。出来れば、君の出番がないことを切に願うよ。じゃあね、また会えたら会おうね」
彼はくるりと向きを変えて、髪をなびかせ、そのままコットニー地区の入り口に向かって歩いていった。ここと他を繋げる場所は、何故か一つしかない。中にはそれなりに道があるのだが、辿れば最終的に行き止まりばかり。
逃げるも攻め込むも、たった一つしかないのだ。空も出入り口ではあるが、塔からの監視があるので難しいだろう。それに、もしあのジェシー教授が来るのであれば正面から堂々と来るような気がしていた。
「はぁ……」
審判の時が近付いている。僕も、一応持ち場につかなければならない。
(僕だって、アーリヤ様の為にこの戦いに尽くしたい。けど、僕の所に奴らが来たら……それは危機だ。皆を信じるのが正解なんだろうけど)
持ち場に向かいながら、僕は色々と考える。
(それに、僕がこんな重要な役割を担って正解なんだろうか? 僕は決して強くない。未熟だ。未熟過ぎる。アーリヤ様の為に戦いたい気持ちは当然あるけれど、僕では力不足かもしれない。アレンさんやドール達を倒して来るような人達に、こんな僕が勝てるのか? あぁ、こんなことで葛藤している場合ではないんだ。もう決まったこと。覚悟を決めて挑む他は……ない。でも、醜態をアーリヤ様の目の前で晒すなんて嫌だ。どんな手を使ってでも、僕は勝利を収めなければいけないんだ)
考え事をしながら歩いていると、いつの間にか僕の持ち場に到着していた。
(それに、あれに座りながら待つって……何か過去を思い出して嫌だな)
「はぁ……」
複雑な気持ちを抱えつつも、僕はドアをゆっくりと開いた。




