弟を助けたい
―ジェシー 街 昼―
その後、俺と選抜者達は合流して急いでコットニー地区へと向かっていた。箒ならそう時間はかからない。最初、彼らは空を埋め尽くす人相の悪い男達と戦おうとしていた。俺がコットニー地区へ行くことを促すと、彼らは怒りを露にした。
『学校が狙われているのに! 俺達がどうにかしねぇと駄目だろっ!』
真っ先に、ケビンがそう言うとは思わなかった。選抜者としての自覚が、しっかりと芽生えている証拠であった。俺としては、とても嬉しかった。
けれど、そんなことに喜んでいる時間はなかった。この場を理事長や他の人々に任せ、俺達がコットニー地区に行かねばならない理由を説いた。
『ぶっちゃけ、ここを襲ってくる奴らのレベルはたかが知れてる。理事長とその愉快な仲間達、束になればそれなりの力にはなる先生達がいる。守りつつ、攻撃もせねばならない。守備は理事長が任せて欲しいと言っていた。お前達の力を信用してのことだ。だから、一緒に来て欲しい』
簡単な説明ではあったが、事情を把握している彼らは理解を示してくれた。
「なんか、大学の方がヤバイってよ!」
「マフィアが暴れまくってるって!」
「最近休講になってるのと関係あるのかしら……」
「あれ? あの服……マギアの選抜者の服じゃねぇ?」
「こんな所で何やってるのかな?」
「まさか逃げてるとか?」
「さあ……」
箒で上空を颯爽と駆けていると、街の人々のざわめきが自然と耳に入る。勝手なものだ。俺達がどんな思いで箒にまたがっているのかも知らず。
「勝手ですわね」
「いいんです。言いたいように言わせておけば。私達は、私達のやるべきことを果たすんです。最善かつ最良の行いをすれば、汚名は払拭されますよ」
不快感を滲ませるマリーに、ジョンは呆れ混じりに言った。
「……先生っ!」
先頭を駆けていたマイケルが驚きを滲ませながら、俺を呼んだ。
「ん?」
「前方に誰か……行く手を塞いでいます!」
(マイケルが邪魔でよく見えねぇ……ん?)
横に少し移動すると、俺の目にもしっかりと見えた。赤髪の少女と黒髪の女性が宙に浮かんで、俺達の進行方向を塞いでいるのが。どういうつもりなのだろう、外見だけで判断するのは良くないだろうが、もしかしたらアーリヤの手の者の可能性もある。
「ちょ、俺が前行くわ」
「はい」
順番を入れ替え、待ち構える彼女らの下へ少しずつスピードを落としながら向かった。そして、気付いた。
「あーっ!」
「何アル!?」
「急に大きな声を出さないで欲しいネ!」
「クロエじゃねぇか!」
「ジェシーの知り合い?」
「知り合いも何も、赤髪の方はお前達と同じ学生だ。学年は違うけど。でも、もう一方は知らねぇな」
彼女達の前で、計算通り箒はとまった。気付くのがもう少し遅かったら、横を通り抜けるか衝突は避けられなかった。
(何故、彼女がここに? 確か、タミに連れ去られたきり……)
「お久しぶり、ジェシー教授。この戦い、私達も参加させて貰うわ。私も、そして美月もコットニー地区にとても大事な用事があるの」
クロエは選抜者達の警戒も何のそのと、平然と俺達の方に近付く。
「その用事って何? 急に現れて信用なんて出来ない。それに、どうしてこの道を通るって分かったのかしら」
ベッキーは、いぶかしむ様子で彼女らに問いかける。
「……タミは私の弟。タレンタム・マギア大学で選抜者に選ばれたって聞いてる。だから、貴方達なら知っているでしょう? あの子を助けたい。それが用事。この道にいた理由は、貴方達が一番通る可能性が高いってクロエが言ったから。私達は、貴方達を陥れる為に来た訳ではないの。どうか、お願い。協力させて」
機械的に喋る黒髪の女性はそう言って、頭を深く下げた。そんな彼女の行動に威圧していた選抜者達も、どうしたものかと困惑して顔を見合わせる。
「構わない。ただし、それ相応のリスクがあることは分かるね? それでもいいのなら、一緒に来るといい」
すると、彼女は素早く顔を上げて言った。
「ありがとう」
「皆もいいよね?」
硬直していた彼らだったが、少し経つと優しい笑みを浮かべて頷いた。
「よし! 行くぜ!」
戦力は多いに越したことはない。それに、感じる。クロエもそうだが、美月の方からも強烈な力を感じる。俺とよく似た龍の力を。
(確かめる余裕はないかもしれないが、龍の力を宿しているなら……間違いなく戦力になる)
無表情な美月、将来有望なクロエ。彼女らを引き連れ、再びコットニー地区を目指し箒の速度を上げた。




