ぶっ飛ばしてGO
―ジェシー 学校 昼―
全てを知っているはずの青い空。何も知らないフリをして、いつも通りに澄み渡っている。
「今日も本当にいい天気だねぇ。嵐の前の静けさって所かな?」
恥ずかしい限りだ。多くの者の前で気絶するという醜態を晒してしまったのだから。車椅子に座って、のんびりと空を見上げるボスこと――。
「ウゼぇぞ。N.N.さんよぉ」
「煽り返しのつもりかい? 恩を仇で返すの?」
「……はぁ。ごめんって、今回の件については、マジで感謝してる。お前の力がなければ、今頃絶賛衰弱気絶中だっただろうからよ」
少し体に痺れが残っているものの、行動することにおいては何ら問題ない。
「前回と同じような失敗をかますつもりはないからさ。でも、自分のかけた魔術の効果は永久的じゃないよ。だから、早くケリをつけるか……力を取り戻すかのどちらか。自分的には後者であって欲しいんだけど。生半可な気持ちじゃ駄目だよ。昔の君は、自分自身の為なら容赦なく他人を切り捨ててたじゃないか。そもそも、その残酷さが君の力が引き出されるきっかけに――」
「お前には分からねぇよ」
生温くなってしまったことは自覚している。一番手っ取り早い方法が目の前にあるのに、見てみぬフリをし続けた結果、一番守りたい者まで巻き込んだ。守りたいくせに、危険に晒す矛盾。変わらずにいられたら、きっと世界という大きなものは守れたはずなのだ。
なのに、今の俺は――その世界に生き、この学校に通うあいつらのことを守れればそれでいいと思っている。あいつらが平穏に生きるには、平穏な世界が必要。だから、今こうして俺は――。
こんなの太平を司る者として失格だ。絶対的に間違っているのは、この俺だ。
「まぁ、色々な経験を踏まえて変わってしまうことはよくあることだよね。自分だって……でもさ、ん?」
「おいおい、マジかよ」
並々ならぬ気配を感じて俺達が一斉に視線を向けた先、そこには澄み渡る青い空をほとんど埋め尽くすほどの箒に乗った大群がこちらに向かって飛んできていた。
「折角の青空が台無しじゃないか……」
「これも想定内か?」
黒いベールの下で、どんな表情を浮かべているかは分からない。ただ、その声からは焦りの「あ」の字も感じなかった。それどころか、やっぱりかという落胆が伝わってきた。
「想定外なんて、今更中々ないさ。さ、君も選抜者達を連れてコットニー地区に赴きなよ。あ、でもリアム君はお留守番ね」
「……何故だ?」
「切り札は、取っておかないとね」
「下手なことはさせるな。いくらお前であっても、あいつの命に関わるようなことがあったら……」
最近のリアムは、調子がかなりおかしい。抜け殻状態。タミが敵になってしまったこと、それが想像以上の負担であったらしい。正直、参加させるべきではないと俺は思っている。しかし、こいつがそれを認めなかったから仕方なく学校に置いている状態だ。
「フフフ、大丈夫だよ。彼は、この世界では無敵に等しいから。こっちが片付いたら、彼と共にコットニー地区へと向かうつもりだ。じゃ、頼んだよ……」
そう言いながら、口元だけ黒いベールを上げて不敵に微笑む様を見せつけた。そして、車椅子ごと姿を消した。
「チッ、勝手な奴だ!」
不満はいくらかあるものの、やらねば勝てない。イレギュラーなことなど起こさせはしない。俺は、選抜者達が集まっている場所へと箒をぶっ飛ばした。




