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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十二章 目覚め
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姉の心

―ボス 学校 朝―

 それにしても、退屈だ。だからこそ、こんなにも意味のないギャンブルが出来てしまう訳だ。退屈とは罪。満たされた時間を味わってしまったが故、今この瞬間が地獄以外の何物でもない。


「ね~まだかな? イザベラ~ちょっと偵察部隊と連絡――」

「その名前で私を呼ばないで。貴方がそう呼ぶから、皆も真似をするじゃない。折角、役職名があるんだから、そっちで呼んで欲しいわね」


 イザベラは仏頂面で、自分を睨みつける。なんて恐ろしい。折角の美しい顔が台無しだ。


「え~だって長いもん。いいじゃん、素敵な名前なんだから」

「あんなゴミみたいな奴から貰った名前なんて、呼ばれても嬉しくないの。その名前を呼ばれる度、あいつらの姿を思い出して腹が立つ。あいつらが本当に愛し合っていたのなら、私達を実験目的で生み、育てなければ……! あいつらが普通であったのなら、あの子だって壊れてしまうことはなかった!」

「どうしたの? 最近は、柄にもなく取り乱すことが多いよね。もしかして、そのあの子のせい?」


 彼女には、血の繋がった妹がこの組織にいた。かつて、彼女が命懸けで救い出したたった一人の妹が。ところが、その妹は組織を裏切って、何の繋がりもない者の所に行ってしまった。しかも、自分達にとっての最大の敵の下へと。

 恐らく、そのことが彼女の中で引っかかり、ストレスを与えているのだろう。どうして、何故、といくら考えても出て来ない答えに苦しんでいる。導き出せるはずもない、何故なら思想が違う者同士の心は理解出来るものではないからだ。


「……っ!」


(図星か)


「仕方ないじゃないか。あの子が望んだのは歪みない真実だった。嘘なんて求めていなかったんだから。でもまぁ、第三者的に見れば奴隷という表現は間違いではなかったのだけれどねぇ。彼女はそう思ってなかったのか、それが当たり前だと信じているんだろうねぇ。辛いねぇ。そして、歪みない真実を与えたのは、アーリヤの手の者だったんだ。あの子は多分……信じていたのに騙された、そう思ったんだろうね。失意に満たされたからこそ、裏切った。いや、裏切ったのは自分達の方か」


 あの子に言っても信じて貰えないだろうが自分のやり方で、イザベラと妹のハッピーエンドを叶えてあげるつもりだった。それが、実験品として生まれてきた姉妹に救いになると思ったから。


「君がこの組織を信じ、来ることを選んだように、あの子にも選ぶ権利があるんだよ。同じ母親から生まれようとも、存在は全くの別物だ。君は覚悟出来ていなかったのか? 違う生き物である姉妹が道を違えるということを」


 自分は気付いていた。あの子にかけた記憶の封印が完全に解けていることに。それを咎めなかったのは、その子の為でもない。彼女の為でもない。他ならぬ、自分自身の為。

 心のどこかで期待していた。裏切りによって、この世界が変わっていくことを。


「でも……」


 彼女は涙を堪え、強く唇を噛み締める。悔しいのだろう。寂しいのだろう。苦しいのだろう。実の妹を敵と認識しなければならないことが。


「勿論、君の気持ちも分かる。けれど、あの子にもそれなりの覚悟があるはずだ。彼女は……アシュレイはもう子供じゃない。一人の大人として、見てあげないと。この決別は、お互いに殺し合うことにもなるだろう。ただ、それもまた運命だったんだよ。悲しんでいてはキリがない、折角だから楽しまないと」

「そんなの……無理だわ。だって、私達は姉妹なのに……!」

「う~ん、じゃあ、命令ね」


 微笑みを向けると、イザベラはそれを拒絶するかのように顔を横に向けた。


「あの子の信じる正義と目的……それが、この組織とは一致しなかったんだって。仕方ないことだから、いつもみたいに頷いてよ」


(正義……か、そんなものはこの組織にはないけどね。正義と呼ぶには、あまりに醜く穢れている)


 彼女も意固地になっているようだ。普段は三番目のあの人の代わりとして、大人っぽく振舞っているが……これが本来の姿だ。そのギャップが堪らなく、愛おしい。


(この結果から言えることは一つ。残酷な真実を隠す為の嘘もバレてしまえば、結局傷付けてしまうってことだよね。ちょっと予想外だったけど、モノガタリを歪めるまでには至ってない。やっぱり、巽君が一番の――)


「ん?」


 そんなことを考えていた時であった。ドアが強く開かれる音と共に、何かが倒れる音が部屋に響いた。


「の、呑気に、やってる場合じゃねぇ……って。アーリヤがっ……力を……」


 その何か、はジェシーだった。余力を振り絞って、ここまで来たのだろう。それだけ伝えると、事切れたように動かなくなった。


「ジェシーっ!?」


 自分と言い合いをしていたイザベラは、倒れたジェシーの下に慌てて歩み寄る。素晴らしい切り替えだ。


「大丈夫、疲れて眠ってるだけだから。にしても……またか」


 予想はしていたが、やはりまた負けてしまった。となれば、すぐに向こうは仕掛けてくる。お互いに時間がないってことだ。


「暇潰しはおしまい。さ、忙しくなるよ。それぞれの持ち場で……しっかりと演じようじゃないか」


 自分は立ち上がり、思い思いの感情を浮かべる皆を見据えた。

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