眩む世界の中で
―ジェシー 学校 朝―
「――う゛っ!」
職員会議真っ只中の最中、突然それは起こった。ぐにゃりと世界が歪み、鈍痛が俺を襲った。思わず、手に持っていたマグカップを落としてしまった。
「あららぁ? 大丈夫ですかぁ?」
「あ、嗚呼……申し訳ない。折角、アーナ先生に淹れて貰った紅茶なのに……」
散らばったマグカップの破片と、絨毯に染み込んでいく紅茶。事はもう過ぎてしまったので、それを見守ることしか出来なかったが、心惜しい。
「顔が真っ青じゃが……急に体調でも悪うなったのかの?」
朗らかな声で、臼村教授が俺を心配する。
「い、いや……そんなんじゃ……」
「手も震えている。そんな様子で、何事もないと言い切れると思っているのか?」
キャンベル学長が、怪訝そうな声で指摘する。無論自覚していた、隠し切れていないと。それほど、急激で突然で強烈なものだったのだ。
(息が苦しい……まさか、これはっ!)
体調不良にしては様子がおかしい。それに、以前にもこんな経験があった。それと全く同じの症状。そう、アーリヤが現れて、力を広げていった時と――。
「やはり、連日選抜者達を指導なさっていることが、体に響いているのでは……?」
「それに、私……昨日の夜中見ました。先生が魔法の練習なさっている所……結構長い時間。もしかして、こんな状況になってからずっと……」
「こんな所で倒れていたら、話になりませんぜ。先生が頼りなんですから、寝る時はしっかり寝ないと」
見当違いも甚だしい。彼らは何も知らないから、無理もないが。
「ハハハ……見られてたのか。隠れてやるタイプだから、恥ずかしいなぁ。全然やってないけど、何か出来た~って言えないじゃんか~う゛っ!」
こんな形で注目されるのは嫌だった。誤魔化そうとしたのだが、絶え間なく襲ってくる苦痛は堪え切れなかった。
「無理しない方がいいと思いますよぉ。どうせ、こんな会議に大した意味なんてないじゃあないですかぁ」
「そんなことは……あるかものぉ。ホホホホ!」
俺は焦っていた。このままでは、奴らに絶対に勝てないと。龍としての力を取り戻せないのなら、俺や皆の人間としての力を引き出すしかないと。僅かな可能性に賭けていたのだが、この様。つまり、間に合わなかったということ。
「そうだな……ハハハ。無理は全くしてないけど、今日だけは調子が滅茶苦茶悪いみたいだから、もう休むわ。会議勝手にやってて。じゃ、また明日……」
俺は力を振り絞って、立ち上がる。
この状況だ。こんな所で、時間を無駄にしている場合ではない。選抜者やあいつに伝えに行かなければ。もう、やるしかないのだということを。敵を討ちにいくしかないということを。俺の力が取り戻されるのを待っていたら、その間に世界が滅茶苦茶にされてしまう。何としても、それだけは避けなくてはならない。
「頼んだぜ、学長さん……」
俺は学長にウィンクとポーズを決めた後、眩む世界の中、俺は壁を頼りにしながら皆のいる場所を目指して歩き続けた。




