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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十二章 目覚め
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時は満ちた

―アーリヤ アーリヤの邸宅 朝―

 裏切られたという失意、私利私欲の為に無力な母親を利用した男への怒り、どれだけ苦しもうとも決して死ねない自分自身への恐怖、男を喰らってしまったことへの嫌悪感、己の弱さへの自覚――巽のありとあらゆる絶望が巨大な負の感情となって、わらわへと流れ込んでくる。その負の感情は、今までのものとは比べ物にならないほどに濃厚であった。


「素晴らしい感情じゃ……」


 欠けていたものが補われていく感覚。瞬時に察する、目覚めの時が来たのだと。


「我が姫君、その力はまさか……」


 共に食事をしていたドライアドが、わらわの異変に気付いて身を乗り出す。その瞳には、喜びが灯っていた。


「ついに時が満ちたということ……あぁ、ついに愛するアーリヤ様の真なる力が呼び戻される日が……!」


 わらわの髪を丁寧に梳いていたアシュレイが、手をとめて感慨に浸っている声が聞こえる。


「キング……」


 ただ一体、ドールだけは胸を押さえて悲しそうに俯いていた。


(愚かな人形よのぉ……まぁ良い)


 その想いは、巽の策略のままに生み出されたことも知らずに。滑稽なことだ。


「皆の者、時は満ちた! 永い屈辱の恨みを晴らす日が来たのじゃ! 太平を司る龍を抹殺し、この世を混沌で満たすのじゃ!」


 懐かしい感覚だ。あの頃のように、体いっぱいに強大な力が満たされている。今ならば、わらわの願いも叶う。かつて、太平の龍と白きカラスに妨害された願いを。


「嗚呼! どれほど、この時を待っただろう! これでようやく……願いが叶う」


 アシュレイが、優しくわらわを抱き締める。


「あ、あの男が上手くやったということか。ふん……」


 ドライアドは慌てて、わざとらしく不満そうに腕を組んだ。しかし、自分の思いを寄せる相手が計画を遂行させたことへの喜びは隠せてはいなかった。


「キングとアレンは……どこに?」


(面倒じゃのぉ。ドアの目の前におることくらい、わらわの力を宿しておる者同士分からぬのか?)


「心配しなくても、もうすぐそこまで来ておる。のぉ、アレン?」

「バレてましたか~はい、ドーン!」


 向こうから悪戯っぽく笑う声が聞こえたと同時、勢い良くドアが蹴破られた。ドアの破片が部屋中に飛散するくらいの勢いであった。

 危うくわらわに当たりかけたが、咄嗟に前に出たアシュレイが魔法を使ったことによって、それは避けられた。


「アレン! アーリヤ様に当たっていたらどうするつもりだ!?」

「ごめんごめん、でもアシュリーが庇ってくれたお陰でノープロじゃん? それに、今のアーリヤ様なら……多少の怪我くらい大したことじゃないでしょ?」


 アレンが巽を抱きながら、軽く笑って部屋に入る。


「笑い事じゃない……」


 アシュレイは手を握り締め、怒りの炎を燃やし始める。


「大事に至っていないのだから、ダラダラと文句を言うのはやめろ。それより……何故、男が男をいわゆるお姫様抱っこをしているんだ?」


 怪訝そうに、ドライアドが眉をひそめる。


「事の成り行きで……彼も嫌がらないからさぁ」

「降りますっ!」


 ぼんやりとしていた巽は、アレンの言葉で羞恥を感じた様子で腕から逃げた。

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