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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十二章 目覚め
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十字の紋章

―アレン コットニー地区 朝―

(まさか、男をお姫様抱っこするなんてなぁ。にしても、寝顔は本当に女の子だよなぁ)


 俺は、人の姿に戻ったタミを抱きながらアーリヤ様の邸宅に戻る為に朝の街を歩いていた。彼の額には、十字が輝いている。この十字は、暴走する獣の力をコントロール出来る特別な紋章だ。


(原作者の特権って奴だよね。これで、彼が獣の状態になっても自由に操れる。タミが獣の姿になってくれてラッキーだったのかもしれないな。ちょっと面倒だったが、結果的には……)


 人を獣化させる魔術は、俺が考えたものだ。実際に具現化したのも、拡散したのも俺ではないが、この魔術の穴くらいは分かる。

 かつて、この魔術が人々を混乱させた時も、俺はこれで何人かを手中に納めた。それで更なる混沌をもたらしたのも、懐かしい良い思い出だ。


「う、うぅ……」


 腕の中で眠るタミが目を覚ましたと同時、額で輝く十字も溶けるように消えた。


「おはよう」

「は……?」


 寝起きで頭がぼんやりとしているようだ。自分の今の状況が、全く理解出来ていないといった表情だ。


「は? とは酷いなぁ。挨拶くらい返してくれてもいいじゃないか」

「どうして、アレンさんが……」

「話聞いてた? 別にいいけども。えっとね、化け物になったタミを救ってあげたのが俺だから的な?」


 俺がそう言うと、タミは不思議そうな表情を一瞬浮かべた。が、すぐに、ハッとした表情に切り替わる。


「そうだ、そうだった……あ、ロイは!? あの親子は!?」

「そう慌てるなよ。ロイは、君が美味しく処理したでしょ。あの親子はどっか逃げてったよ」

「今なんて!?」


 タミは、俺の首下を掴んで激しく揺らす。昨日、食べた物が全部出て来そうなくらいの勢いだ。現に、気分が悪くなってきていた。


「おいおいおい~ちょっと、ちょっと! 落ち着けって。そんなに激しく揺らされたら吐いちゃうって! てか、タミを落としちゃうって! タミが散々な目に遭うだけだけども、それでもいいんならいくらでも揺らしていいよ」

「落ち着いてなんていられますか!? だって、僕は……僕はっ! 人を……喰らってしまったっ! そこまでのことをするつもりはなかったのに……息の根をとめるだけで良かったのに」


 彼が動揺した理由を聞いて、俺は疑問を覚えた。


「何を言ってるんだ? タミは、自らその力を使ったんだろ? コントロール出来ない力を使えばどうなるか分かっていたはずだ。なのに、喰らうほどのことをするつもりはなかった、だって? 食欲旺盛な獣が肉の塊を見て、何もせずに終わる訳がないじゃないか……ハハハ」


 見通しが甘過ぎる。奇跡でも願っていたのだろうか。強大でおぞましい力とは長い付き合いであるはずなのに、ここまで理解がないものかと思った。


「それにしても、タミぃ……君も中々酷いね。ロイのこと、殺してもいいって思ってたんだな。ただ、汚らわしい肉を口の中に入れたくなかった。ま、殺すことに関しては俺もそう思ってたし~軽蔑はしない。ただ――」


 彼の怯えた目を、しっかりと見据えながら言った。


「あの親子みたいに、肩入れするようなことは今後ないようにね? アーリヤ様が殺せって言ったら、ちゃんと殺せよ? 女だろうが、子供だろうが……大切な相手だろうが、絶対に。それが出来ないようだったら……どうなるか、分かってるだろ?」

「あ、あぁ……分かって、分かってます……」


 未熟な彼には、これくらい言っておいてやらないと。アーリヤ様の傍にいるのに、優しさや甘さは自分自身を苦しめるだけなのだから。

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