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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十二章 目覚め
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奪ってしまった

―アレン コットニー地区 早朝―

 獣の姿になってしまった者を正気に戻す方法、それはいくつかある。今から、俺がやろうとしているのは最も効果的で効率的なやり方だ。これをやるのは久しぶりなので、少々不安である。


(まずは、落ち着かせないとね。かなり興奮してるみたいだし。これじゃあ……触れられない)


 毛を逆立てながら、俺を威嚇する獣。下手に近付くと、大怪我じゃ済まないだろう。


(俺は不死身じゃないからなぁ。気を付けないと)


 こんな所で死んでいては、今までが全て水の泡になる。自ら、人としてこの世界に留まることを望んだのだ。それだけは、絶対に避けなければならない。


(まぁ、相手は暴走した獣だ。特殊な力はあるとはいえ、知性など感じられないし……冷静に対処すれば問題ないかな。傷付けないで疲労させる魔術……やってみるか)


「ごめんね。でも、痛くはないからさ」


 彼に手を向けて、重量化の魔術を使った。目に見えた変化はないが、この魔術を受けた側は異様に重くなった体によって異変に気付く。

 この魔術は人間相手、特に戦いに慣れた者には有効ではない。対になる魔術などを使えば、すぐに解除出来てしまうからだ。なので、使えるのはこのように力任せに体一つで戦うような相手だけだ。

 

「グルルルルル……?」


 流石に、重くなった体の変化には暴走した彼も気付いたようだ。苦しそうに首を振り回す。恐らく、何かが乗っかっていると思って探しているのだろう。


(体を動かせば動かすほど、疲労は蓄積するんだよ。普段の君なら……それくらいはすぐに分かっただろうに。これはもう、時間の問題だな)


 放っておけば、彼は勝手に疲れて動けなくなるだろう。それまで、少し一方的に語るとしよう。今の状態の彼なら、人の言葉を理解することなど出来ないだろうし。

 俺は、ゆっくりと彼に歩み寄る。それにすぐ気付いたようだが、彼はこちらに突進してくるようなことはなかった。


「グゥ……」


 近付くと、彼は小刻みに体を震わせているのが分かった。息も苦しそうだ。重みに一生懸命耐えているのがよく分かった。

 今の彼に身を動かせるほどの余裕はないということだ。こちらが手を出すようなことをしなければ、彼は無理してまで攻撃することはないだろう。


「突然だけど、俺の話を聞いてくれないか。まぁ、聞いても分からないし、興味もないだろうけど……今の君だから聞いて欲しいんだ。もしも、君がずっと死ねなくて……でも、周りは当然ながら年を取って死んでいく。まぁ、別にそれはいいんだ。大したことじゃないから。だけど、自分の目の前に、かつての自分にそっくりな子孫が現れたらどう感じる? 俺のことを向こうは知らないけどさ……俺は怖かった。だから、奪ってしまったんだよね」


 そこにいてくれるだけでいい。ただ、話せる相手が欲しかった。アーリヤ様や他の者には、どうしても話せる気分になれなかった。話しても意味のない相手にぶつけたかったのだ。


「まさか、血筋が残っているとは思わないじゃないか……あんなに小さかった妹が、俺の頭の中では子供のままだった妹が血筋を残せるくらいに成長していたってことだから。感慨深くて、悲しくなって耐えられなくなったんだ……って、あ」


 まだ話し足りなかったのだが、ついに彼が地面に倒れた。ドシーンと地面が大きく揺れ、俺も倒れてしまいそうになった。


「まぁ、少し話せたからいいや」


 俺は倒れた彼の前に立ち、見上げる。意識はあるようで、視線だけをこちらに向けた。しかし、体を動かす元気はないようだ。

 この時を待っていた。俺は、彼の額に人差し指を当てて、そこで十字を切りながら呪文を唱えた。


「神の名の下に、人の子に安らぎを」


 すると、額に白く輝く十字が浮かび上がり、そこから発せられた光がゆっくりと彼を包んでいった。

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