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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十二章 目覚め
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躯を貪る獣

―コットニー地区 早朝―

 僕は、彼の力を解放していく。それによって伴う苦痛。体を毛が覆い、徐々に変質していく体。増大していく破壊衝動。その衝動は、心を蝕んで覆い隠していく。


「う゛……あぁ、ああ」


 目に映る全ての物を破壊したくて堪らなくなっていく。ロイの体をぐちゃぐちゃにして、跡形もなく消し去ってしまいたい。


(……あぁ、駄目だ)


 そして、内面からも引き裂かれるような痛みに襲われ、ついに僕はロイを離してしまった。


「お、ぉお……これが龍の力を身に宿す者の変貌の瞬間ですか。なるほど、価値のある商品ということに間違いはなかったらしいですね。聞くだけではいまいち分かりませんでしたが……まぁ、今の私には、もうどうでもいいことだがなぁああっ!?」


 発狂しながら笑うロイが、僕に拳銃を向け、一切の迷いもなく引き金を引いた。しかし――。


「あぁ!? くそぉ、弾切れか! あぁぁあ!」


 彼は拳銃を睨みつけて、地面に強く叩きつけた。

 むやみやたらに撃ち続けるからだ。弾に限りがあることは分かっていたはずなのに、愚かな男だ。その時の衝動に任せて何も考えずに……まるで、僕の鏡のよう。


「クククク、う゛か゛あ゛あ゛っ!」


 だから、腹が立った。その時の憤りが、この時の僕の最後に感じた感情だった。


***

―アレン コットニー地区 早朝―

 黒い獣が、一人の人間の体を切り裂いた。その凄惨な様を、俺は少し離れた建物の屋根から見守り続けていた。


「お゛お゛あ゛あ゛あ゛!?」


 静かな時間に響く哀れな男の絶叫。堕ちる所まで堕ち、救いもなかった男の体からは噴水のように血が飛んだ。


「おぉ……おぉ、ぉお。これはこれは」


 なるべくしてなった姿。救ってやるつもりは、殊更なかった。何故なら、ロイは約束を破ったから。タミに手を出すのなら、絶対にあの母親を使えと言った。それなのに、彼は途中でそれを放棄し、自ら手を下そうとした。

 この俺との約束を破った罪は、死を持って償って貰うことにに決めたのだ。


「痛々しい姿だ。ねぇ、タミ……」


 躯を貪る黒い獣。もはや、あれを見てタミとは認識出来なかった。そこにいるのは、異質な姿の獰猛なライオンだ。


「君がそこまでする理由がちっとも分からないよ。血の繋がりもない、赤の他人だろう? 何が、君をそうさせたんだろうかねぇ。自分を犠牲にしてでも、あの親子を守った理由は一体……」


 しかも、自分を裏切った相手だ。タミが、あんな姿になってまで守りたかった理由は謎ばかりである。


「まぁ……そんなことは些細なものか。さてと、俺はタミを救うとしようか。君もそんな姿でいると、心苦しいだろう?」


 俺がやらなければ、あの獣はやがて躯を食い尽くし、新たな獲物を狙って暴れるだろう。今はそれを求めていない。余計なことはさせないようにしなければ。あんな大きな怪物に暴れられたら、ここは壊滅的状態に陥るだろうし。


「グルルルル……」


 屋根から飛び降りて近付くと、獣はよだれを垂らしながら俺を睨んだ。


「俺が美味しそうに見えるのか? やれやれ……参っちゃうね。でも、そういう視線は求めてないからね。タミ、今元に戻してあげるよ」


 俺は後ろで結った髪を解き、身を構えた。

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