運命のままに
―コットニー地区 早朝―
なんていい物を持っているのだろう。まるで、これで殺してくれと言わんばかりではないか。それならば、願いは叶えてやらないと。
「どうした? 撃たないのか? 死にたいんだろう? 勇気がないのか? なら、私がやってやろう」
僕を本気で怒らせた罰だ。一体、どこまで屑なのか。用済みになれば、共謀者さえ殺すとは。
「あぁ!? おめぇ目が腐ってんじゃねぇのか? それとも本格的に頭がイっちまったのかぁ!? 私が殺そうとしてるのは、この女だよぉ! ていうか、なんでてめぇが生きてんだ!」
「ハハハ、この私が死ぬとでも思ったのか? 言っただろう? 私は死に嫌われているんだ。そう簡単には逝けない。痛い思いばかりが続く……今この状況みたいに。ちゃんと自分の目で確認しないとな? 彼女は殺しは素人な訳だから」
彼は怯えている。まるで、化け物でも見ているかのような目だ。まぁ、化け物であるのは事実だ。普通なら、あそこでとっくに息絶えているはずだから。
僕が呼吸をして、ここまで気配を消して来れたのは、普通という枠を超えた異常な存在になってしまったからだ。
ただ、流石に体は苦しい。気力と意地でここにいるような状況である。
「くっ……どこまで役立たずなんだぁ、このアマぁああああ!」
「ひっ!?」
ロイが、引き金を引こうとしていた。瞬時にそれを悟り、僕はロイの手を押さえて銃口を下に向けさせた。その後すぐ、地面に弾丸が放たれる。その衝撃が僅かに僕に伝わり、傷口を舐めた。
「くっ……」
「てめぇええ! 舐め腐りやがって!」
激高した彼は暴れ、発砲し始める。多くは何もない所に当たっただけだったが、一発だけ僕の頬を掠めた。母親達には当たらなかったのは幸いだった。
「おぎゃああああああ!」
すると、大きな音が何度も聞こえたことに驚いたのか、あんなに機嫌の良かった赤子が泣き始めた。
(まずいな……このままでは、ロイが怒りを赤子に向けてしまうかもしれない。殺すつもりはないようなことを言っていたが、道理が通じない相手だ。やはり、ここは……やるしかない)
僕の腕の中で暴れるロイ、大声で泣く赤子、状況に慌てふためく母親――全てが最悪だ。運命は既に決まっていたとしても、そこまでの過程で余計な犠牲が生まれてしまうことだけは避けなくてはならない。
ならば、僕はここで僕を犠牲にする。
「……いいか、よく聞け! 今度こそ、その赤子を連れて逃げろ! もう本当に時間がないっ!」
「でも、でもっ!」
「どうせ何も出来ない! 足手まといになるだけなんだ!」
僕がそう言うと、彼女はぎゅっと唇を噛んで、悲しそうに一度僕を見て――遠くへと走っていった。
「待て、くそっ!」
拘束から逃れる為、ロイの抵抗はより激しいものへとなっていく。それが、僕の今の体には酷く堪えた。もはや、躊躇も慈悲も必要ない。こいつの運命は、ここで――終わらせる。




