全て終わり
―ロイ コットニー地区 早朝―
私達はあの男を罠にはめ、ホーリーロード通りから離れた。
「ハハハハハハハハハ! やってやった! やってやったぜぇ、私はぁあ!」
体がかなり重いが、自力で何とか歩くことが出来た。達成感と優越感に包まれ、気分は軽かった。
「あ、あの……」
「あぁ!? んだ!?」
「彼はあのままでいいんですか……」
女は赤子を抱きながら、沈んだ声で言った。
「いいに決まってるでしょう? あの醜態を晒してやるんですよ。全く、おめぇが全然行動を起こさねぇから、この私が酷い目に遭っただろうがよぉ!? えぇ!?」
私は、アレンに『タミを殺せるのなら殺してみて。それが出来たら、君は晴れて足拭きマットは卒業。真の意味で、コットニー地区の支配者にしてあげる。ただし、あの母親を絶対に使ってね』と、そう言われていた。
今日のこの瞬間まで待たされた。昨日、ついに待ちきれなくなったのか、アレンは恐ろしい気迫で脅してきた。そして、深夜に私が味わった恐怖をこの女に味合わせた。それで、ようやく行動を起こしたのだ。
「まぁいい。全ては無事に終わったことですし……これで、私と貴方の関係も終わりました。良かったですねぇ」
私の手には、女から受け取った血に染まったナイフがあった。随分と深く刺したようで、柄の方まで真っ赤だった。勢いでやったのだろうが、大したものだ。
刺してから一度引き抜いた分、出血はとんでもない量だっただろう。女が私の横を通り過ぎて、すぐにその後を追いかけた為、あいつの死はしっかりと確認していないが、見た時には地面を真っ赤に染めて倒れていた。
「は、はい……」
女は真っ青な顔で、小さく頷いた。今更、罪悪感でも感じているのか。愚かな女だ。
(だが……私に味合わせた苦痛の責任は取って貰わないとなぁ)
「ククク……おめぇの人生もなぁ!?」
「え!?」
突然のことで理解が追いついていないであろう女に、私は隠し持っていた銃を向けた。
「な、なんで……」
女は涙目になって、その場に尻餅を着く。
「結果としては成功しましたが、それまでの道のりに時間かけ過ぎなんですよ。私がどれだけの時間待っていたか知ってんのかって話だよ。散々な目にも遭うしよぉ……その責任は取って貰わねぇとなぁ!?」
このコットニー地区で、私だけが所持している特別な物。大人になったばかりの私に、父が渡してくれた物だ。初代がアレンから譲り受け、それから先祖代々受け継がれてきた物らしい。
俺がタミを殺すのであれば、これを使うのもアリだった。だが、あの女を武器としなければならなかった。かなり面倒臭かったが、これで全て終わりだ。
「安心して下さい。子供はちゃんと育ててやるからよぉっ!?」
私は撃鉄を起こし、女の心臓に狙いを定め――。
「お前に赤子を育てる権利はない……」
ぞくり、と震えてしまうほど怒りに満ちたオーラを感じた。そして、血の気のない手が拳銃を持つ私の手に触れた。氷のように冷たく、生きている人間の体温ではなかった。恐る恐る視線を向けると、そこには悪魔のような顔で私を睨む、死んだはずの男――タミがいたのだ。




