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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十二章 目覚め
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強さの仮面

―コットニー地区 早朝―

 体から感覚が奪われていく、僕は赤子を落とさないように必死に抱き続けた。


「あ゛あ゛……」


 立っていられない。体中の血液が穴から溢れていく。


「ごめんなさいごめんなさい、ごめんなさいっっ! ごめんなさい!」


 母親はそんな僕を見て、何度も謝罪の言葉を繰り返し発した。


「これで……よか、ったんだ、ろ……早く行け」


 僕は余力を振り絞り、赤子を母親に渡した。それで、僕の中で糸が切れた。ついに足がもつれ、立っていられなくなったのだ。


「そんな、でも……」

「生、きろ」


 そうだ。彼女らに生きて貰うという僕の信念の為に行動した。それに、この勝負はこれで終わりではない。命を賭すという土俵に乗った以上、ロイは――。


「うっぅぅ……! ごめんなさいっ!」


 母親は戸惑うような素振りを見せた後、ロイの倒れている方向に向かってようやく走り出した。


(嗚呼……まさか、裏切られていたなんてな)


 地面の冷たさを肌で感じながら、己の認識の甘さを恥じた。弱い立場の者が、この僕を騙すはずがないと勝手に捉えていた。

 

(僕は、いつの間にか信じてしまっていた。そんなつもりなんてなかったのに。一方的に。僕が間違っているんだ。愚かなのは僕。嗚呼、出し抜かれていたんだ……僕の弱さは見抜かれていたんだ)


 父上の真似をして、どれだけ必死に強がっても無駄だった。強さの仮面はあまりに脆かった。弱い奴がどれだけ強がっても、根底は変わらない。


(腐ってもマフィアのボス……嗚呼、意地を見せつけられた気分だ)


 この小さな汚れた世界で、誰かを信じるというのが間違いだった。常に疑ってかかるべきだった。僕が間違っていたとはいえ、心が痛い。裏切られるというのは、こんなにも心が痛くて苦しくなるものだったということを、僕はこの瞬間を持って思い出した。


「ハハハ……う゛う……」


 痛い。だが、こんな所で苦しみ悩んでいる場合ではない。朦朧とする意識と鋭い痛みと戦いながら、僕は手を着いて、ゆっくりと身を起こす。

 そして、母親の走っていった方向に顔を向けた。


「やっぱり、な」


 そこに、既にロイや母親の姿は既になかった。二人は共謀していた。僕を陥れる為に。二人の目的は一致していたとは思えないが、どちらにせよ僕は攻撃されたのだ。


(だが……あくまで、向こうの作戦に乗ってやっただけ。僕は本気だ。今なら、向こうは間違いなく油断している。僕と共に命を賭すということの恐ろしさを……分からせてやるっ!)

 

「あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!」


 僕は、歯を食いしばって立ち上がる。体が奥底から冷えているのを感じる。それでも、僕はやらなくてはならない。

 僕が支配者だということを、あいつに死を持って分からせる為に――。

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