人間の力
―ジェシー 学校 夜―
その後、メアリーとジョンは晴れ晴れとした表情で戻ってきた。俺は色々察して、あの場に居合わせた全員を集めた。
リアムもとりあえず呼んでみたが、やはり来なかった。まぁ、あの事件に関しては彼は大した影響を受けていないから大丈夫だろう。
「「迷惑かけて、すみませんでした!」」
そして、二人は今までの行為を頭を下げて謝罪した。
「私、本当にどうかしていたんです。今、言動を振り返ると本当に恥ずかしくて……何故、あんなことをしてしまったのかちっとも分からないんです。自分でもどうすることも出来なくて、ただ皆に当り散らしてしまいました」
悩む人の心に付け込み、闇を増幅させる力――それに、ジョンやメアリーは影響を受けていた。自分ではどうにもならない気持ちの暴走。まだ、戻ってこれる段階だったことが救いだ。
「――悪いのは、俺もだ。いい年して、餓鬼みたいに怒って悪かった。マジダセェよな。あの後、ちょっと冷静になってよ……情けねぇって」
ジョンの言葉に反応して、ケビンが気恥ずかしそうに頭を掻きながら言った。
「イライラさせてしまったのは、私ですから」
「感情が噴き出してとまんなかった。本当にすまねぇ!」
「そんな……謝罪の言葉なんて、私には勿体ないです!」
勢い良く頭を下げたケビンを見て、ジョンはあたふたし始めた。すると、二人の会話が途切れたのがチャンスだと思ったのか、メアリーも頭を下げて言った。
「私も、逃げ出したりしてごめんなさい」
「本当大変だった。追いかけても追いかけても、ちっとも追いつかないんだから。お陰で、今日はぐっすり眠れそう」
ベッキーがわざとらしくあくびをして、悪戯っぽく言った。それをきっかけに、少し張り詰めていた空気が一変した。
「あぁ……本当に疲れたよ。まさか、メアリーにあんな特技があったとは。驚いたな。あれは、戦術として活かせると思うな」
マイケルは腕を組み、目を瞑り思い出すようにして頷く。その反応を見て、メアリーは顔を真っ赤にして俯いた。
「そんなに速いアル?」
「見てみたいネ!」
「じゃあ、校舎まで皆でかけっこなんていかが?」
マリーのその提案に、皆は目を輝かせる。
「悪くねぇな」
「競争か。なら、負ける訳にはいかないな。色々あった後だ、皆で走ればいい気晴らしになるかもしれない」
「じゃあ、決まりですわ!」
(フフ、良かった。何なら、前より仲良くなったって感じに見えるぜ。これが絆だ。これが、アーリヤ――貴様が舐め腐った人間の力だ)
彼らは和気藹々と楽しそうに、すっかりいつもの姿に戻っていた。邪悪な気など微塵も感じなかった。
(感じているだろ? お前も、お前自身の敗北を――)




