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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十一章 反目
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不釣合いな二人

―メアリー 丘 夕方―

 私は一人、思い出の大切な丘で沈みゆく夕日を眺めていた。


(……いつの間にか、ここに来ちゃったなぁ)


 何も考えず、ただひたすらに無我夢中に走り続けていたら、このジョンと約束をした場所に来てしまっていた。そこでぼんやり景色を眺めていたら、いつの間にか夕方になっていた。


(どうせ、この約束は守って貰えないのに。どうして、無意識にこんな場所に来ちゃったんだろう)


 そう思うと、自然に涙が溢れてきた。


(馬鹿だよなぁ、私って。無意味な場所に、無意識に逃げて来ちゃうなんて)


 マリーとマイケルが、私を追いかけていることには気付いていた。けれど、立ち止まれなかった。怖かった。私は、周りの皆からあんな風に思われているのだと知ったから。二人も、そう思っているのではないかと不安になったのだ。


(私の居場所なんて、結局どこにもないんだわ)


 馬鹿みたいだ。所詮、選抜されて集められただけの集団を心の拠り所にしてしまっていたなんて。

 家では、いつも一人。幼い頃から、両親は出張で不在だった。使用人がいたけれど、彼女らは仕事で私の傍にいるだけ。主と使用人、それ以上の関わりなどなかった。

 だから、ジョンと選抜者の集まりが私の救いだった。それを、私は全て失ってしまった。


(私は、独りだ)


 心が重い。ただただ、苦しい。考えたくなくても、考えてしまう。私は、なんて弱いのだろう。


(あの夕日と同じ……)


「――やっぱり、ここにいたんですね。メアリー」

「え?」


 夕日を泣きながら眺めていると、背後から声をかけられた。私はその声を知っている。ずっと、ここで聞きたかった声だ。間違えるはずもない。振り返るとそこには、やはり――ジョンがいた。


「ジョン?」

「随分と待たせてしまいましたね。さっきは、ごめんなさい。私のせいで、傷付けてしまって……」


 ジョンの表情は、昼頃とは違って穏やかなものに戻っていた。


「どうして、ここに……」

「忘れたことなんてありませんから。私にとってもここは、大切な場所です」

「じゃあ、なんでずっと……」

「私には許婚がいるんです」

「え?」


 許婚がいる、その言葉を聞いて心臓が突き刺されたような衝撃を覚えた。そんなことを伝える為だけに、わざわざここに足を運んだというのか。


「生まれた頃からいるんです。言ってなくてごめんなさい。でも、小さい頃は許婚の意味なんて分かってなかったんです。ここでメアリーに告白される前日に、ようやく全てを理解したんです。自分の人生が、そこまで決められているなんて知りもしなかったんです」


 ジョンは、悲しげに私を見つめる。


「じゃあ、分かった時にそれを教えてくれれば良かったのよ! どうして、ずっとそんな大事なことを隠してたの!? 私を馬鹿にする為!?」


 かっとなった私は、柄にもなく声を荒げてしまう。自分でもコントロール出来なかった。


「違います!」


 私の言葉に対して、ジョンはすぐさま否定した。


「勇気がなかったんです。どちらか一方を選択する勇気が。私にとって……愛おしいのはメアリーです。幼い頃からずっと、大好きだったんです。だけど、私の家にとって最良な相手がその許婚でした。家の為に生きてきた私にとって、選択することが怖かったんです。子供の私にはとてもではないけれど、すぐに決められるようなことではなかったんです」

「私のこと、大好き……?」


 あの時から、ずっと私は友達や幼馴染以上の感情をジョンは持っていないのだと思っていた。私だけが一方的に愛を持っているのだと。

 しかし、ジョンの言葉を信じるのなら、それは私の――。


「はい。愛しています。だから、決めたんです。もう、私は大人ですから」


 ジョンは歩み寄り、そっと私の手を握った。久しぶりに感じたジョンの温もり。この温もりに触れると、とても安心出来る。


「全てが終わったら、私と一緒に来てくれませんか? メアリー。楽な道ではないと思います。私は最低な男です。それでも、愛してくれるなら許してくれるなら……一緒に生きてくれませんか?」

「あ……あぁ」


 ずっと、待ち続けていた言葉。もう貰えないものだと思っていた。だから、厚い氷に覆われた心が、その言葉を聞いてすーっと溶けていくような気持ちになった。


「勿論っ!」


 あまりの嬉しさに私は、ジョンの手を強く握り返した。


 私は、最低な女だ。自分さえ良ければ、ジョンの許婚のことなど何とも感じなかった。選ばれたのは、私。愛されているのは、私。安心感が、この心を支配していた。

 この美しい場所に、私達なんて不釣合いだ。お互いに、お互いのことしか思えないのだから。

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