心は見えねぇから
―ジェシー 学校 昼―
すると、ジョンは耳を塞いで、拒絶するように叫んだ。
「黙って下さい! もう、私のことは放っておいて下さいよ!」
「そんなこと出来る訳ねぇだろ!」
「どうしてですか……どうして……」
当たり前だ。このままジョンの願いを聞き入れてしまったら、増大したアーリヤの力によって結界が発動し死んでしまう。今はまだ、俺がかつて張った結界が発動するほどのものではないようだが――この状況、時間の問題だ。
「苦しそうにしてる奴を、見捨てられる訳ねぇだろ! 教師としても、俺としても嫌なんだよ。そういうのは!」
「そうだったとしても、私のこの気持ちが先生に分かる訳がないでしょう!? 人は人の心を理解出来ないんですよ!」
「そう思うんだったら、その気持ちを俺にぶつけろよ! さっきから言ってるだろ。言わないものが分かる訳ねぇだろ!? 心は見ねぇんだから」
今ならまだ間に合う。気持ちを前向きなものに変えることが出来たのなら、アーリヤの力を自分で浄化することが出来る。
「ぶつけたって……どうにもならないじゃないですか!? 先生が解決出来るようなことでもないのに」
「だ~か~ら! 一人で抱え込んでも、心に負荷がかかるだけだろ!?」
徹底した拒絶に、俺はストレスを感じてきていた。
(あ~駄目だ、こいつのペースに巻き込まれていたらいけねぇ。他者を退けることで、こいつを孤独にさせる。独りで悩めば、何一つ解決せず負の感情が増大する。それを栄養として搾取するのが、アーリヤの目的のはず。無意識の内に、こいつはその為の行動をさせられているのだろう。ここで、俺がこいつを見捨てれば……アーリヤの思う壺だ)
厄介な力を、あの女は持っている。弱い心に付け込む卑劣な力。隙を見せたら、そこから広がっていく。広がっていかないように、この瞬間に全力でやらなければならない。
「さっき、ポロって言ったよな。板挟みだって。家かメアリーを選らばねぇといけねぇって」
向こうが頑なに言うことを避けるのなら、俺から投げかけるしかない。咄嗟に考えて、先ほどのジョンの発言を思い出した。
すると、ジョンはハッとした表情を浮かべた後、酷く歪んだ笑顔で高笑いをし始めた。
「……ハハハハハハ! 知られたくなかったのに、私の口から漏らしてしまうなんて、なんて愚かなことなのでしょう。自分で自分が情けなくて馬鹿らしいですね! はぁ……だから、私は弱いのですね。なのに、私は選ばなくてはならないのですね」
「ようやく、言ってもいいかなってくらいの気持ちにはなったか?」
「言っちゃいましたからね。自分から秘密を漏らしてしまったんです。しかも、一番大事な所を。そこを言ってしまった以上、もうどうでもいいって感じですよね。それに、言わないとずっとしつこく迫るつもりなんでしょう? 私は、早く一人になりたいんです。聞きたいのなら、いくらでも言ってあげますよ。どうせ、先生も……私に呆れる未来が見えますけどね」




