約束を守らせて
―ジェシー 学校 昼―
ジョンから、邪悪な気が発せられ始めたのだ。
(嗚呼、なんてことだ。ジョンは完全に毒されている。あのアーリヤの力に)
「こ、これは何アル!?」
「紫色のオーラをまとって……危険な気しかしないネ」
「これってヤベェんじゃね……?」
彼の露骨な変わりように、リアムを除いた全員が怯えた様子で後退りする。
(この場にいる奴らは、ジョン以外は全員大丈夫みたいだな。だが……)
向こうに行った連中のことが心配だ。特にメアリー。一番気に病んだ様子だった。それに、アーリヤの力を使いこなすタミと関わった内の一人。毒されていてもおかしくない。現に、そのタミと関わったジョンがこうなってしまっているのだから。
「離れろ! 今のこいつは……負の感情に支配されている。下手に近付くと、お前達も危ない」
かつて、俺はこの力を前に屈した。本来の体も失い、威厳も奪われた。あの状況をどうにか出来るのは、俺しかいなかったのに。
でも、あの時とは違う。例え、この体であっても今の俺なら絶対に解決出来る。俺は、自分を強く信じている。あの時と違う行動を起こせれば、結果も違うはずだ。
「それって……まさか、彼女の――」
「知っているんだな、アリア」
彼を見るアリアの酷く怯える薄い紫色の目。彼女を最初見た時から、俺は正体に気が付いている。多分、向こうも察している。けれど、今はお互いにお互いの人間としての生活がある。
「え、えぇ……勿論」
「なら、こいつらを避難させてくれねぇか。こういう場合は一対一の方がやりやすい」
「はい、分かりました」
俺がそう尋ねると、表情を引き締めてアリアは力強く大きく一度頷いた。普段は頼りない彼女、だが今この瞬間はどこかたくましく見えた。こんな表情が出来るのだと思った。
「そんな! 私達だって戦えますわ!」
マリーは、避難を促されたことが不満だったようだ。
(お前には自信がある。名家としての、選抜者としての……実力だってある。だけど、マリー……まだ、お前では力不足だ)
「いいから黙って、俺の言うことを聞いてくれ!」
俺は焦っていた。ジョンの発する気が増大している。ここで実力がどうなの何だのという話をすることは、危険だ。
「俺に約束を守らせてくれ!」
俺に言えるのはそれだけだった。俺は、皆を守りたい。教師として、学生と学校を守りたい。気が付いたら、宝物になっていた、学生達の笑顔の為。
「先生……」
必死な思い、それが幸いにもマリーや他の者達にも伝わったようだった。
「今の俺には、全員を傷付けず守れる力がない。だから、分かって欲しい。俺が未熟だから、お前達にはここから去って欲しいんだ」
「はぁ、しゃーねぇな……正直、こいつと話してても、らち明かねぇし。先生が解決してくれるんなら、もう任せるわ」
「すまん」
アリアはそれを確認してから、皆に声をかける。
「行きましょう。ここは、ジェシー教授にお任せして」
「分かったアル」
「急ぐネ! ほら、リアムもボーッとしてないで!」
メイが、佇むリアムの腕を掴んで引きずっていく。
巽と戦わねばならない事実を知ってから、リアムの落ち込み加減は増した。心ここに在らずといった状況だ。機械的に来て、何もせずに帰っていく――普段を知っているから、余計に心配だ。
「これでもう言い訳は出来ねぇな……さ、ジョン! いくらでもぶつかってきやがれ!」
俺はジョンに向かって、両手を広げた。




