朝が来ていた
―自室 夜中―
無駄に広い部屋、そこにベットと机と椅子だけを置いている。部屋の片隅にだけ、生活感が溢れている。これでも、一番狭い部屋を自身の部屋にしたのだ。それなのに、孤独はしっかり感じる。
自室では基本的に寝るとか、勉強をする以外のことはしていない。こんな所で、楽しく過ごすことなんて出来ない。いや、こんな一人で住むのに適していない家に住んでいる限り、それは無理だろう。孤独の象徴のようなこの場所では、楽しみなんて感じられない。ただ、学校やレストランにいない時の時間をここで過ごしているだけ。
「くそ……分からない」
そして、今僕は机に向かっている。それは、明日までの提出課題を終わらせる為だ。だが、終わっていない。何故なら、分からないからだ。今の今まで何かと理由をつけては、逃げてきた。
「なんで、魔法を使った時の詳細な式なんかを書かないといけないんだ……使えればそれでいいじゃないか。あーもう嫌だ。全然分からない……誰かのを写させて貰おうかな」
この課題は先週出されたものだ。難易度的には、教育を受けた子供なら誰にでも分かる問題だそうだ。しかし、残念ながらこんな筆記形式で学んだ経験が、僕にはこの国に来るまではなかった。ずっと実技形式だけで、僕は魔法を学び続けていた。だから、こんな基礎の基礎の問題も解けない。
「勉強すると、こんなにもすぐ眠たくなる。考える気力も湧かない。もう諦めようかな……」
ペンは、僕の手の中で踊っているだけ。いや、踊らされているだけ。いつの間にか、こんな暇つぶしの技術が身についてしまっていた。
『お前は会話が成り立たずコミュニティから除外され孤独に生き、陰で馬鹿にされ……』
そんな時、ある人物の言葉が脳によぎった。僕を嗤いながら、平然と僕を馬鹿にする、そんな奴の言葉だ。
「駄目だ、甘えは……僕がやらなければ意味がない」
失いかけていたやる気が、その言葉を思い出したことで蘇ってくる。
(僕は馬鹿じゃない。やれば出来るんだ。だって、現に出来ているじゃないか……苦手だった英語もしっかりと覚えてる、使いこなせてる。分からなかった頃が懐かしいよ。短期間で、まさかここまで出来るとは……)
自身の過去の栄光を例に挙げて、眠気と憂鬱な気持ちを吹っ飛ばし、戦うべき相手を堂々と見据える。
「やってやる……」
僕は教科書と課題の紙を交互に見比べながら、答えを導き出すことにした。教科書には、いつも僕が望む答えも解き方も書いてはいないけど。応用的に考えてみよう。考えること自体は得意なはずだ。
「この教科書の問題似てるんだけど……ちょっと違う、う~。体内エネルギーを何に変換するんだ? 魔法によって違いがある? あーもう統一してくれよ……」
この日、結局僕は寝ることが出来なかった。この課題が終わった時には、朝が来ていたから。