選抜者達の亀裂
―ボス 学校 昼―
でも、もし、自分の予測が外れるようなことが起きたとしたら――。
(イレギュラーなことが一つでも起きれば、凄く面白いのに)
全て計画通りに行くことを望む自分と、計画が滅茶苦茶になることを望んでいる自分。矛盾し、相反する感情。そんな自分は、ずっと昔からいる。最近は、後者の方が大きくなっている気がする。
(可能性はある。だって、彼らには巽君との接触があるから)
極稀ではあるが、巽君はイレギュラーな現象を起こす。茶番を変えてくれる。だから、彼が起こすかもしれない奇跡も信じている。
(嗚呼……欲望は本当に醜いよなぁ)
欲望は人を変える。欲望は人を成長させる。欲望は人を狂わせる。
(だから――いい)
***
―ジェシー 学校 昼―
俺は、どうにか二人を引き離した。ようやく、話を聞ける環境になった。俺とケビンとジョンを中央に、他の者達は円を作って囲んでいる。重苦しい雰囲気だ。
「さて、まずはケビンの話を聞こうか」
もう少し和やかな雰囲気で話をしたいのだが。そうもいかないようだった。
「だ~か~ら、ジョンがうざいからだって言ってんだろ? ウジウジブツブツと……気に障るんだよ。つーか、前々からむかついてたんだよ。堂々と人前でメアリーとイチャコラしやがって。で、ちょっと上手くいなかったらわざとらしく落ち込みやがって。そういう所、全部気に食わねぇ」
「女子とまともにかかわったことがないからって、嫉妬ですか?」
「おいおい、言いたいことを言うのは勝手だが……もう少し言葉を選べ」
二人共、何やら様子がおかしい。前々から彼らは見てきているが、こんなにいがみあっているのは見たことがない。
「そ、そうだよ……かっこ悪いよ、ジョン」
消え入るような小さな声で、メアリーが俯きながら言った。
「今、メアリーは関係ないでしょう。勝手に入ってこないで下さい」
「ちょっと! 貴方、それはないんじゃなくって? メアリーは、貴方のことを思って――」
「分かったような口、利かないで下さい」
「なっ!?」
冷たく言い返されたマリーは、かなりショックを受けたようで目を見開いて硬直した。
「酷いアル!」
シャオがお団子頭を揺らしながら、ジョンに迫る。
「もう少し優しく言うネ!」
それを見て、メイも首下で結った三つ編みを揺らして彼女の隣に立つ。
「貴方達はもっと関係ないでしょう。普段から、二人の世界に入っているんですから。いつもほとんど何も言わないくせに、こういう時だけ入ってくるんですね」
彼は、それを悠然と見下ろした。
「私達のこと、そういう風に思ってたアル……?」
「二人の世界に入ってるのは、ジョンもメアリーも同じことネ! 付き合ってるのかと思ったら付き合ってないし、かといって友達みたいな感じでもないし……扱いにくいネ!」
ジョンの言葉に反論する為に言ったそれは、悲しみに震えるメアリーを傷付けた。そして、この空気。俺の存在など、その気まずさで掻き消されているような気がした。
こういう場合、どうするのが正解なのか――経験が皆無なので、対応の仕方がまるで分からない。人間的解決、言葉による解決の方法が分からない。力を使えば、それはもう人間らしさがない。
「シャオもメイも、私のことをそんな風に思ってたの……? 酷い、酷いよ!」
そして、この空気、投げかけられる言葉に彼女は耐え切れなくなり、ついに涙を流しながらその場から逃げ出した。




