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僕は僕の影武者~亡失の復讐者編~  作者: みなみ 陽
第二十一章 反目
295/768

不満

―エトワール 学校 昼―

 俺達が手を組んでから、少し日が経った。選抜者やアリアは、魔術などの向上の為の練習を寝る間も惜しんで行っている。

 最初の頃の張り詰めた空気は少し落ち着いた。日々が過ぎる中で、僅かだが選抜者達の心に余裕が生まれたのだろう。世間では、それを油断とも言うが。


「奴ら、手を出してきませんね」


 真っ黒なベールで顔を覆い隠し、車椅子に座る理事長、改めボスに話しかける。


「向こうも向こうで、すぐに攻撃出来ない事情があるんだろう。何となく、そんな気がしていたよ。もし、準備が出来ていたのなら、あの化け物騒動から始まっていただろう。あの時、こちら側は完全に手薄だった。自分も立場上、応戦出来る状態になかったしする気がなかった。殲滅するならあの時だった。それをしなかったのは……こちら側に、ある程度の信頼関係が築かれた上で――」

「いい加減にしろよ!」


 穏やかな空気を切り裂く怒号が響いた。周囲で練習していた者も、それに驚いて手をとめる。



「おやおや……大変ですねぇ。仲良し集団が喧嘩を始めたみたいですよ!」


 ぐったりと俯いていたヴィンスが、水分を貰った花のように活気を取り戻した。純粋な子供のような目をしている。


「そろそろ不満を抱く余裕が出来る頃だよねぇ。ヴィンスの気持ちも分かることには分かるんだけど。栄養不足の植物の栄養を見守ってるくらい退屈だったから。だけど、それだとアーリヤの……あの男の思う壺だ。エトワール、とめてきて」


 ボスはため息をついて、揉めている集団を指差した。


「ご命令とあらば」


 その命令に従って、俺は取っ組み合っている男二人の下に駆け寄った。


「え、エトワールさん! ど、どうしましょう……急に喧嘩が始まってしまって……」


 慌てふためいているアリアは、俺に声をかける。


「嗚呼、見れば分かる」


 見るからに一触即発、今にも爆発してしまいそうだ。


「やめたまえ、君達! やめるんだ!」

「そうですわ! 理事長や他の方々も見てらっしゃるのよ。選抜者たる者達が、恥を晒してどうするんですの? 一度、深呼吸なさい!」


 二人の喧嘩に割って入ろうとする男女。しかし、殺気立っている男に魔術で軽く吹き飛ばされて、地面に尻餅をついた。


「ネガティブな発言ばっかしやがって! 聞いてるこっちがテンション下がるってか、腹立つんだよ! すぐ休むし、やる気ねぇんだったら選抜者なんてやめて帰っちまえよ!」


(胸倉を掴んでる方、ピアスまみれなのがケビンとかいう奴だったか? ピアスがなければ、驚くほど特徴がない奴だな)


「誰もやる気ないなんて言ってないですよ。独り言を勝手に聞いてる方に責任があるんじゃないんですか?」


(胸倉を掴まれても、怯える様子がないのがジョンだったか? 覚えづらいな、もっと特徴的だったらいいんだが)


 このまま放置すれば、ケビンが手を出してしまうだろう。興奮しているようで、鼻息も荒い。


(手がかかる。経験も未熟、魔力も未熟、精神面でも未熟とは……)


 頭が痛い。こんな奴らを使うくらいなら、まだ俺達の組織の者達を総動員した方がいい気がする。ボスのこの行為にどんな真意があるのか、俺には分かりかねる。

 だが、俺はやらなくてはならない。ボスに仕える者として、駒として。それが俺の役割だから。

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